東南アジア局運輸通信課長の山口浩昭さんに聞く
Inside ADB | 2020年12月24日
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キャリアパス
東京大学工学部卒→同大学大学院(工学修士)→コンサルティングファーム(日本や豪州で勤務)→豪州政府機関(並行してニューサウスウェールズ大学大学院工学理学修士、PhD)→ADB入行 (南アジア局運輸通信課交通専門官、同課長を経て現職)
もともと海外で仕事をしたいという気持ちが中学、高校の頃からあり、大学時代にナミビアの独立を目の当たりにして、国づくりを支える経済発展や国民生活の向上に欠かせないインフラ開発に携わる仕事に関心を持ちました。大学院卒業後は、国際機関や海外での業務が多い、当時は十数人規模の運輸交通分野を得意とするコンサルティングファームに就職。日本国内の仕事が中心でしたがプロジェクトをいくつか任され、技術的な仕事に加えて、潜在案件の仕込みから契約の獲得まで担当し、時折、政府機関や関係企業との折衝や世界銀行の個人コンサルタント業務等も請け負いました。豪州に移ってからは、仕事と並行して大学院にも通い、調査研究と仕事をうまく両立する必要がありました。これらの経験は国際協力とは異なるものの、開発途上国の政府機関と仕事をする際、先進国の同分野にまつわる話は非常に喜ばれますし、何より自分の専門分野を確立することができ、仕事において「自信」を手に入れることができました。ADBには2003年に入行し、南アジア局で運輸交通に係るプロジェクトの発掘、形成、実施、政策協議等を担当した後、2017年に東南アジア局に移りました。
ADBでの担当業務
ADBには、東アジア局、東南アジア局、南アジア局、中央・西アジア局、太平洋局という5つの地域局があり、各地域局の運輸通信課は、それぞれが対象とする開発途上国に向けた、運輸・交通・通信分野における貸付案件や技術協力案件の発掘や形成、実施、そして政策協議といった一連の業務をこなしています。基本的には、政策的に重要性の高い空港や港湾、鉄道、道路等のインフラを対象としており、ADBの2030年までの事業戦略である「ストラテジー2030」の優先課題のもと、環境に配慮した、持続可能な質の高いインフラ支援を行いつつ、ADBとしての付加価値を提供しています。最近では都市交通案件が増加傾向にあります。また、メコン河流域圏(GMS)の東西経済回廊の支援等、ミャンマーやタイなどGMS諸国間の連結性を強化し、貿易や観光、投資、更には気候変動への強靭性や環境の持続可能性の促進を後押しする案件も依然として重要です。特にこの分野では、地域協力プログラムとの整合性が常に念頭にあります。
キャリア・エピソード
インドやバングラデシュの国有鉄道や国道ネットワークを拡張させる仕事は特に印象に残っています。相手国政府は、開発効果の早期発現を求めていて、ADBは、借入者とのローン締結前に、調達手続きを開始する必要がありました。また、それと並行して、相手側の機会や制約を考慮しながら、政治的、社会的に難しい課題をクリアしていき、各サブセクターの効率化のための制度改革や合理化政策を相手国政府と一緒に作り上げました。顧客の課題を探る手掛かりを導き出すことや、その課題の解決策を示すことによって、お互いの信頼関係は更に強化され、それ以降、ADB側からの新しい試みや提案も快く受け入れてくれる等、数多くの優良案件を生み出すための好循環を創出できました。2007年当時は、まだ一般的ではなかった事前請負契約や遡及融資も、今ではそれが通常手続きとして制度化されている国もあります。フィリピンでも同様の手法が用いられており、最近では、マロロス・クラーク鉄道案件等で成功を収めています。
また、しばらく協議が滞っていたADBの地域協力プログラムにおいて、2010年に「南アジア東北部の交通接続」会議を開いたことを皮切りに、GMS及び中央アジア地域経済協力(CAREC)と並ぶ、南アジア小地域経済協力(SASEC)プログラムの再生に積極的な役割を果たすことができたのもとても印象的です。ADBは、アジア各地で広域地域を対象とした経済協力の枠組み構築を推進しており、バングラデシュ、インド、ブータン、ネパール、パキスタンを包含する南アジア地域における広域経済回路の開発は、アジア全体を東西に結ぶ結節点として大きなポテンシャルを有します。また、ネパールとインドを結ぶ国際橋は、前述の会議で提案され、チームリーダーとして携わった案件の一部であったため、今年開通した際にはとても感慨深いものがありました。
SDGsへの取り組み
ADBの事業戦略である「ストラテジー2030」の優先課題はSDGsのアジェンダとも紐付けされており、開発途上にあるアジアの国・地域では、現在の経済成長を維持し、貧困問題に取り組み、気候変動に対応するには、2030年までに年間1.7兆ドルのインフラ投資が必要になると予測されています。また、経済成長の基盤となる、運輸や電力・エネルギー、通信等の経済インフラだけでなく、学校や病院、住宅等の社会インフラは経済成長と社会発展において極めて重要な役割を果たします。鉄道や道路といった運輸交通分野でも、気候変動に対応し災害リスク管理を強化すると共に、いかに住民移転やジェンダー、貧困層などを考慮し、案件を形成していくかが重要になります。また、地域協力やリバブル・シティといった観点から、セクター間の壁をなくし、都市開発や電力・エネルギー等のセクターとの共同作業を通じて、よりインパクトのあるプロジェクトやプログラムを形成していきます。更に、日本、ドイツ、フランス、豪州、英国などの各国開発機関や世銀等、他の国際開発金融機関との協議を重ね、特定プロジェクトにおいては協調融資を行います。また、SDGsの達成において、民間資金は、経済成長や雇用創出のための原動力として大切な役割を担っていることもあり、ADBの投融資に占める民間部門のインフラ事業の割合も拡大しています。今後、民間部門業務局との連携を強化し、官民連携のパートナーシップによる自律的好循環を加速していければと思います。
仕事のやりがい
インフラ開発のプロジェクトマネージャーを努めてきた身としては、案件の発掘、形成から実施まで、相手国政府と直接協議しながら全てを一貫して担当できるのが魅力です。数十人程度のコンサルタントの専門性を活かしつつ、政府関係者や労働組合、また場合によっては不特定多数の住民との話し合いを行うこともあります。難しい組織改編等の政策協議を必要とする案件や、非自発的住民移転が伴う案件等、開発の過程における人々や環境への負の影響を防止・軽減する必要もあり、案件形成に3年以上かかるものもあります。
様々な国で仕事ができるのもADBの醍醐味です。文化をはじめ、国によって政策や制度は異なり、一つの国や組織でできたことが必ずしも他で通用するわけではなく、カウンターパートと常に一緒に解決策を探っていきます。問題の背景には複雑な要因があり、上手く解決策を導き出すことができた時には、お互いの喜びも大きく、やりがいを感じます。
また、地域協力プログラムにおける協議が、ADBとして最も特徴的な仕事ではないかと思います。運輸交通を担当する各国の行政機関、また、場合によっては財務や外務当局の代表者と一堂に会して協議することもあり、国際開発金融機関としての中立性を活かした「オネスト・ブローカー(公正な仲介者)」としての役割が期待されるところです。特に開発途上国政府に対して国境をまたぐ施設建設に向けての協調や、物流円滑化のための政策提言や能力強化支援事業等を勧める立場にあります。
求められるスキルや経験
ADBでは多様な背景をもつ仲間と共に仕事をするので、専門的スキルに基づいた実務経験と海外経験が必要です。特にプロジェクトに携わる場合は、現場レベルで多くの関係者と話をします。チームプレイヤーである必要があるのと同時に、オープンマインドにそれぞれの意見を聞き入れ、取りまとめていく能力が求められます。また、ADBに限らず将来開発途上国の業務に携わる際、先進国での仕事を通して得た知見や多岐にわたる業務経験は必ず役に立つと思います。それぞれの国でワークライフバランスを見直していくことも貴重な体験だと思います。
プライベート
私はアウトドア派ではないので、週末は読書や様々な国(特に担当する国々)の歌謡曲を聞いて過ごします。特にコロナ禍における新しい生活様式の中では、運動不足になりがちなので、ジムでの運動を普段より心がけています。また、バリスタ気取りでいろいろなコーヒーを楽しんでリラックスするのも日課なので、出張で訪れた国では必ずコーヒー豆を買って帰ります。フィリピンにも珍しいコーヒー豆があり、特にバラコがお勧めです!