• 予算人事経営システム局首席組織調整専門官の池本紘之さんに聞く

予算人事経営システム局首席組織調整専門官の池本紘之さんに聞く

Inside ADB | 2020年11月03日

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キャリアバス

ロンドン経済大学(LSE)社会政策・行政学学士→ロンドン大学教育研究所(IOE)教育経済学修士→海外経済協力基金(現:JICA)→ADB入行(ヤングプロフェッショナル→南アジア局→戦略政策局→現職)

高校は千葉県の山奥にある全寮制の学校でした。消灯後のあり余る時間に同級生とこっそりと集まり、世の中をより良くするには何をすべきかといった議論をよく交わしました。海外生活経験者が多く集まる学校だったこともあり、それまで国内で生活してきた自分の価値観とは全く異なる友人たちの視点に深い驚きと関心を覚えました。そのような体験を通して自身の視野が広がることに魅力を感じ、世界の出来事はもちろん、人の可能性を大きく広げるための教育や人材育成に強い関心を持ち始め、将来は国際機関の人材育成の分野で働きたいといった夢を抱くようになりました。

英語で専門性を高めることが国際公務員への近道だと気づき、日本の高校を卒業した後はイギリスの大学に進学しました。同国の教育政策を学ぶために社会政策・行政学を専攻し、効率性と公平性の観点から教育政策を分析する手法に触れたときは感動を覚えました。修士では教育経済学を専攻し、開発途上国の教育政策にも研究対象を広げました。さらに海外経済協力基金のロンドン駐在員の方々にお世話になったことも、開発援助の世界にますます興味を持つきっかけとなりました。

帰国後は海外経済協力基金で勤務し、教育や下水道、廃棄物処理分野において、タイやマレーシア向けの円借款事業を担当しました。その後、2002年にヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)を通じてADBに入行し、配属先の南アジア局では、教育や保健、都市開発の融資案件などを手掛け、2008年からはチームリーダーとして難度の高い融資案件に取り組みました。2013年に戦略政策局に異動し、2018年に現在の予算人事経営システム局に配属となりました。

ADBでの担当業務

ADBの長期戦略である「ストラテジー2030」で掲げられている7つの優先課題を重視した業務や、新型コロナウイルスによるパンデミックから回復するための支援を円滑に行っていく上で、組織の形態や規模を最適な状態に保つことが必要になります。予算人事経営システム局の戦略的人員計画部門(Strategic Workforce Unit)は、刻々と変化するアジア・太平洋地域のニーズに応じたADBの業務内容、また組織運営の方向性を精査し、ADBの機構・定員などの管理を戦略的に行っています。部門の責任者を含め国際職員は4人といった小さな部署ですが、ソブリン業務やノンソブリン業務、管理予算といった、人事とは異なる専門分野や経験をもつ職員で構成されています。

同部門では、各地域局が毎年更新する向こう3年間の候補案件リストや民間部門業務局の業務計画を基に、将来の生産性向上の見込みを勘案しつつ、業務量やそれに必用な人員などを予測し、組織全体を見渡しながら最適な人員計画の策定を行っています。しかしながら、2020年は、開発途上加盟国のパンデミックからの回復に向けた見通しが常に変化する中で、各国のニーズもそれにあわせて変化し続けることが十分に予想されたため、従来の人員計画の手法とは異なるアプローチが必要になりました。そこで、ワークフォース・アジリティー(workforce agility)の向上にスポットライトが当たり、人員の再配置を速やかに行う枠組みを拡充していくことで、予測が困難な各国のニーズの変化に俊敏に対応できるよう、柔軟で効率的な人員の運用を目指しました。その例として、部署の垣根を越えたチームの結成、必用な人材の一時的なプーリングとシェアリング、定員枠の柔軟な活用といった試みなどが挙げられますが、パンデミック対応支援を機に、以前にも増して活用されるようになりました。今後は、他の開発援助機関とのパートナーシップを通じて、組織間でも似たような試みを円滑に行う仕組みや、渡航規制が続く中において、プロジェクトの現地調査などを継続していく方法の模索も重要な課題となると考えています。

キャリアエピソード

ADB入行当時は20代後半でした。そのような年齢層の国際職員はYPPの同期しかおらず、より高い専門性や豊富な経験をもつ多くの先輩職員との差を感じる毎日の中で、こういった漠然とした不安についてYPPの大先輩に相談したところ、次のアドバイスをもらったことを思い出します。①より多くのプロジェクトチームに参加して現場の経験を積むこと(それなりの時間をかけなければ、専門性と経験の差はそう簡単には埋まらないため)、②ADBのビジネスプロセスに関する規定を熟知すること(これらを疎かにすると、プロジェクトを進めていく際に思わぬところで足もとをすくわれかねないため)。それから10年間、融資承諾件数が多い南アジア局で経験を積み、実務を通じてソブリン業務の基本原則や細則等を細かく学んでいきました。

ソブリン業務の隅々まで分かってくるようになると、プロジェクトの品質管理を担保しつつビジネスプロセスを簡素化していくといった、組織全体の課題に興味を持つようになりました。幸運にも、空席が出た戦略政策局のビジネスプロセスを担当する部署で採用され、ソブリン業務に関する基本原則や細則の断捨離に取り組むことになりました。融資手法、融資手続き、融資資格、技術支援など、多岐にわたる業務の基本原則の中には、1970年代や1980年代に導入されたものがあり、今世紀のビジネス環境ではあまり意味を成さなくなってきたものがありました。そこで、法務部の専門家とチームを組み、100を超える過去の理事会決議書や調査報告書を遡り、当時の背景や決議書の文言の解釈を精査し、ビジネスプロセスを更に簡素化するために、それら基本原則を撤廃または修正することを検討しました。最終案を理事会に諮った後、影響を受ける細則を全て改定しました。

数年かけて行ったこれら一連の作業が一段落した頃、予算人事経営システム局が今後の人員計画の策定に貢献できる人材を探していると伝えられ、新たな分野への異動を決意しました。以前、ビジネスプロセスの簡素化がもたらす生産性向上への効果について、予算人事経営システム局が試算する際に色々と協力したことが、この異動に繋がったと思います。

仕事のやりがい

入行当初は将来のキャリアに不安を感じましたが、大先輩からいただいたアドバイスなどが支えとなり、プロジェクトを通して専門性を高めていったことや業務の基本原則などといった特種で隙間的な領域も学び続けることによって、ADBの職員としての視野を広げ、入行当時考えてもいなかった部署で働く機会を得ることができました。

忙しい日々の連続ですが、担当したインフラプロジェクトが地域住民の生活の支えになっているのを目の当たりにしたり、簡素化されたビジネスプロセスに対して他の職員から好評を得たり、また次年度の人員計画を基に作られた管理予算が承諾されたりした際には、この上ない充実感が得られます。日々の忙しさにも中にも、新たなアイディアを導入して、よりよい成果物を出せるよう試行錯誤し、最終成果物に向けた一つひとつのステップを愉しみながら前へ進むよう常に心がけています。

ストラテジ-2030とSDGsへの取組み

融資や技術支援を担当する部署を、ストラテジ-2030やSDGsを達成するための最前線と定義すると、予算人事経営システム局は、後方支援を担う部署になります。予算人事経営システム局がADBの業務目標やSDGsに直接寄与することはないものの、限られた管理予算の中で、これらの目標へ無理なく段階的に進めるための人員計画の策定を行っています。例えば、優先課題や業務目標の見直しといった方向性の変化や、パンデミックなどの災害といった予期せぬ事態に合わせ、地域局や民間部門業務局の人員の調整をはじめ、法務の専門家、気候変動・防災、ジェンダー、社会開発、官民連携、ガバナンス、地域協力といった横断的なテーマに関する専門家、そしてセーフガードや汚職防止・公正管理の専門家など、業務に関する一連のエコシステムの規模も調整していくことが必要になります。

求められるスキルや経験

予算人事経営システム局の人材・採用の専門家との意見交換を自分なりにまとめてみると、ADBでは次の5つの分野にわたるスキルが求められていると考えます。①専門性:知識の深さや実務経験の豊富さ、②説明能力:関心の焦点が異なる様々な立場の相手に対して、適切な手段や内容を用いて確実に理解をしてもらう能力、③問題解決能力:思い込みや偏見、誤解、政治的な意図といった雑音を一つひとつ取り除いて問題の本質を見極め、同僚と協力して解決策を理論的に導き出す能力、④柔軟性:型にはまったやり方を貫かず、不確実性や多様性に対して臨機応変に対応する姿勢、⑤学習能力:専門分野以外の事柄も進んで学び、関連部署との合意を巧く形成しつつ、新しいことに常に挑戦していく精神。 そしてこれら5つの分野にわたるスキルをバランスよく総合的に活用していく感覚も大切です。

コロナ禍といった未曾有の事態の中、パンデミック対応のために年間業務計画の変更を余儀なくされ、リモートワークを通じて仕事の仕方や意思疎通の図り方は大きく変わりながらも、前例の無い数々の課題を解決するために、同僚とこれまで以上に助け合あって共同作業を進める日々が続いています。このような新たな環境下では、これら5分野にわたるバランスのとれた総合的なスキルの必要性がより一層増したのではないかと思います。

コロナ禍でのプライベート

3月下旬からフィリピン各地で実施された隔離措置は、外出規制のレベルを変えながら現在もなお続いています。食料品や生活必需品の購入、医療機関への受診に伴う外出などを除いて、24時間自宅隔離といった状況で生活をする中、時間帯によってはスーパーに長蛇の列ができるといったこともありますが、状況は以前よりだいぶ落ち着きました。マニラでも「ニューノーマル」が徐々に浸透しつつあり、外出時と帰宅時には、マンションの警備員から検温を求められる他、街中ではほぼ全員がマスクやフェイスシールドを付けています。道を行き交う車や人の量は以前より減ったものの、オンラインの注文で数々の商店やレストランから宅配サービスを受けられるようになり、自転車やバイク便を利用するサービスが急激に増えました。また、スポーツ施設などでは予約制が定着しつつあり、レストランではテイクアウト用のスペースが新たに設けられた他、イートインの際はテーブル間の距離が確保され、新たに仕切りが設けられたりしています。公共料金の支払いも全てオンライン化され、多くの人々がこれらのサービスを当たり前のように受け入れて生活しています。

オンライン化など新たなサービスの出現により生活が便利になったことは色々とありますが、やはり移動制限など以前と比べて不自由な生活が続いていることには変わりありません。正直なところ、車で数時間の距離にあるマリンブルーの輝きを放つ海や、木や土の湿った香りが立ち上る高地の保養地、名作ミュージカルや演劇のワールドツアー、気の合う友人家族との団らんなどが、今はとても懐かしく感じます。我が家では、家族の一人ひとりが、今ある物を最大限に利用して生活を楽しむ前向きな気持ちを大切にしています。現地の食材を用いて美味しい料理を作るために、創意工夫を凝らしてキッチンに立つ妻の姿に感謝する日々が続きます。娯楽はオンラインの動画・音楽配信サービス、読書は電子書籍を使って、日本の文化をリアルタイムで楽しむこともできます。家族でボードゲームやカードゲームをする機会も増えました。昼休みの時間帯を利用して子供達と水泳をしたり、週末にはテニスをしたりして汗を流しています。

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