財務局次長の福永一樹さんに聞く

Inside ADB | 2020年5月8日

キャリアパス

東京大学経済学部卒→東京銀行(現:三菱UFJ銀行)→国際通貨研究所(出向)→ADB入行(財務局資金課課長→現職)

海外で活躍することを夢見て、また学生時代に社会や経済を支える金融を軸とした仕事に関心を持ったことから、国際金融ビジネスに携わることを志して当時外国為替専門銀行であった東京銀行(現:三菱UFJ銀行)に入行しました。当初から市場取引に格別の興味があったわけではありませんが、最初に経験したニューヨークでの海外勤務の際に、二桁であったドル短期金利が急速に低下し、またドル円為替相場が100円近く変動するのを目の当たりにして市場取引に興味を持ちました。その後、東京やロンドンの金融市場で勤務し、銀行業務の基盤となる資産負債管理、金利や為替リスクの管理及び資金調達や資産運用といったトレジャリー業務全般に長年関わりました。その後、国際通貨研究所で国際通貨制度や地域の金融市場の研究に従事した後2010年にADBに入行し、財務局資金課でADB債発行による主要通貨の資金調達を行った他、地場通貨建て資本市場の発達を促す債券発行に携わりました。

ADBでの担当業務

財務局はADBの財務戦略を策定するとともに、借入人のために安定的に低利資金を調達し、また安全かつ有利な資産運用を行うことを通じて、ADBの活動を屋台骨として支えています。加盟国に対するADBの通常資本財源からの融資の原資はADB債券の発行によって賄われていますが、投資家の方々にはADBが発行する債券の購入を通じて、教育や保健・医療、エネルギー、農業、環境、ジェンダーなどの様々な分野におけるADBの活動をご支援頂いていることになります。我々国際開発金融機関は顧客からの預金基盤も頼るべき中央銀行も持たない、ユニークな金融機関です。従って、出資国からの強力な支援と安定的な財務運営に基づくAAA格付けの維持は財務局にとっての最優先課題です。加えて、開発プロジェクトを支える資金調達基盤をより強固なものにするために、世界中のADB債券の投資家層を拡充していくことが課題です。そのために財務局は、発行市場や発行通貨の多様化を図り、さまざまな投資家層からの資金調達が可能になるよう努めております。一方で、民間の企業や金融機関に対するノンソブリン融資においては、収入の大半が現地通貨建てである借入人も多く、その中には、返済に伴う為替リスクを無くすために現地通貨建てでの借入を希望する場合があります。財務局ではこうした要望に応えるべく、現地通貨建ての債券発行やデリバティブ取引によって現地通貨を低コストで効率よく調達する努力をしております。現地通貨建てローンの取り扱いのある通貨は8種類に上りますが、更に数か国にて債券発行に向けた準備をしております。それぞれの市場には異なる規制があり、また市場の成熟度も異なります。加盟国の当局者や市場関係者との協議を通じ、またADBが実際に現地市場にて債券を発行したり、デリバティブ取引を行うことにより、これらの国々の地場通貨建て資本市場の発展にも貢献しています。

キャリア・エピソード

金融市場業務に携わっていると、時々マーケットの均衡を破るような大きな市場変動や出来事に直面します。私が経験した大きな出来事としては、ニューヨークでの研修生時代のプラザ合意に伴うドルの急落、ロンドンの資金課長当時に遭遇した邦銀の資金調達を困難にしたジャパンプレミアム問題及び新通貨ユーロの導入、また2000年代に入って東京の円資金課長時代に導入されたゼロ金利と量的緩和は、その後世界中で常態化しました。更に欧州市場部長時代のサブプライム問題に端を発した国際金融危機に伴う市場の混乱等、80年代から2000年代にかけての金融市場での大きなイベントをそれぞれの現場の最先端で迎えたことは忘れがたい経験です。 想定を上回る大きな変化をすべてうまく乗り切ったと申し上げる自信はありませんが、現場で経験して実感したことは極めて基本的なこと、即ち混乱にもかかわらず本来果たすべき役割を維持することの重要さであり、またそのためには普段から準備を怠らないことの大切さだったと思います。ADBの財務局にとって、最も重要で市場混乱時にこそ果たさなければならない役割は、加盟国が必要としている借入の要請に迅速かつ適切に応えることであり、そのためには必要な資金を提供できるよう常に安定的なバランスシート運営を行うことが大切です。新型コロナウイルスの世界的流行の進展により、加盟国のほとんどが大きなチャレンジを突きつけられています。これまでにADBは感染拡大による悪影響を最小限に抑えるために200億ドルの支援を発表していますが、まさに今こそ財務局がこれまでに培ってきた資金調達力と財務力で、加盟国からの要請に適宜適切に応えるべき時です。これまで民間金融機関の一員としてグローバルな金融取引に長年身を投じてきた者として、キャリアの最後の局面でこれまで培ってきた知識や経験を、アジア・太平洋地域の発展のために活かせることに大きな喜びを感じています。

SDGsへの取組み

ADBは、持続可能な世界を実現するための国際目標であるSDGsに即した開発支援を行っています。一方で、ここ数年来投資家は単なるリスクとリターンの関係だけではなく、環境・社会・ガバナンス(ESG)の側面に目を向けた投資を増大させています。こうした投資家の投資ニーズに応えるべく、ADBの具体的なプロジェクトに関連付けた債券を発行することも我々財務局の使命と考えております。これまでADBでは、ウォーター・ボンド、グリーン・ボンド、ヘルス・ボンド、ジェンダー・ボンド、クリーンエネルギー・ボンドなどのテーマ型の債券発行を通じてこうした投資家の投資ニーズに応えるとともに、投資家からの追加資金によってこれらのプロジェクトを更に拡充させてきています。これらのボンドは、投資家の方々からすると、投資資金がどの様なプロジェクトを支えているかが分かりやすく、好評を頂いております。例えば、ウォーター・ボンドやグリーン・ボンドは、水資源の確保や環境ビジネス、気候変動対策への支援を継続的に行うためのプロジェクトを支えるための債券です。

仕事のやりがい

我々財務局の仕事の醍醐味は、世界中の投資家の方々とADBのプロジェクトを具体的に繋げる役割を果たしていることです。ADBの債券は、出資者である68の加盟国・地域による強い支援と安定的な財務運営によりトリプルAの格付けを維持しているため、信用力が高い分投資家から見た運用利回りは低格付債に比べて低くなります。主要国の金利が低い状態が続く環境下ADB債券を売り込むのは簡単ではありませんが、財務局では世界の主要な投資家を定期的に訪問し、投資された資金が如何にアジアの発展のために有効に使われているのかを丁寧に説明しています。そうした投資家対応が徐々に功を奏し、従来はADB加盟国の外貨準備運用機関など限られた公的機関からの資金が大半でしたが、今では世界中の中央銀行、民間銀行や機関投資家、そして更には個人投資家までADB債の投資家の裾野が広がっています。特に日本出身の財務局員の立場からは、どのようにしたら日本の貯蓄者や機関投資家の資金をアジア全体の開発や繁栄のために活用できるかを常に考えております。昨年は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)との間で、ADBのグリーンボンドへの投資を促進する取り組みを開始しました。

求めらるスキルや経験

ADBの職員はそれぞれの領域で専門的な知識や経験を有しており、プロとしての高い意識をもって業務にあたっています。私もADBで働き始める前は典型的な日本企業の一つで長年働きました。そのどちらにおいても、個々のスタッフがプロとしての業務知識と意欲を持って日常業務にあたる必要があるのは同じです。日本の企業も随分とそのスタッフ構成が変化しているとは思いますが、ADBの場合は国籍、バックグラウンドが異なる多種多様なスタッフがいることから、ただひたすらに自分の意見を主張するスタイルはうまく行かないことが多いと思います。より柔軟に相手の意見を理解し、共に働く意識が重要だと思います。そうすると、意外に意見の隔たりや考え方の違いはないということに、逆に驚かされたりします。 アジアや欧米の機関投資家や金融機関、また加盟国の政府関係者などのカウンターパートと年に何度も面談を重ねるなかで、我々とは異なった視点からの意見を伺うことができ感銘を受けることがよくあります。またその中で特に気が付くことは、日本の機関投資家や金融機関との面談において、女性とお話をさせていただく機会が極めて限られていることです。アジアの他の国と比べてもその差は歴然としています。ADBは2030年までの長期戦略、「ストラテジー2030」の中で、国際職員の女性比率を現在の37%から2022年までに40%まで引き上げると公約しています。役員や従業員における多様性、殊にジェンダーバランスは、組織の長期的な競争力を押し上げるとともに、すぐれた価値の創出を促進します。また、各国において労働力の完全なジェンダー平等が実現すれば、世界の年間GDPが 2025 年までに 28 兆ドル増加し得ると言われています。ADBは女性をはじめ多種多様なバックグランドを持った優秀な人材を求めているので、国際開発やアジアに興味を持たれている方は是非チャレンジして頂きたいと思います。

プライベート

日本からのお客様にとっては、「マニラはいつ来ても暑い」と思いますが、しばらく住んでいると暑さにも違いがあるのが分かり、週末の楽しみ方も変わります。年を通じて最も暑さが厳しいのは4月から7月くらいの乾季ですが、雨が少なく海水の透明度が高いこの季節はスキューバダイビングが一番かもしれません。私はこちらに来て初めてライセンスを取得したいまだ初心者ですが、マニラ近郊のダイビングスポットまで日帰りで楽しめます。その後の雨季が過ぎると、11月から3月くらいまではマニラのベストシーズン。「マニラにしては」と申し上げなければいけないかもしれませんが、空気も乾燥して爽快です。ゴルフが一番の趣味の私にとっては最高のシーズンです。マニラの町は年々ものすごい勢いて変わっています。レストランやショッピングモールも充実してきていますし、加えて日本からのアクセスも便利。快適な生活が楽しめると思います。