東南アジア局エネルギー課課長の久保徹さんに聞く

Inside ADB | 2021年3月29日

キャリアパス

早稲田大学理工学部卒→デラウェア大学大学院(公共政策管理学修士)→米国経済エネルギー効率研究所→トレクスラー気候エネルギーサービス(現:エコセキュリティーズ社)→ADB入行(地域協力・持続可能開発局→東南アジア局→インドネシア現地事務所→現職)

エネルギー全般に関心があり、大学では機械工学を専攻し、中でも熱力学を中心に学びました。ただ当時の理系学部の風潮は「狭く、深く」を追求して思考する傾向があり、学生間で共有される社会に対する問題意識は乏しいと感じたため、文系の学生が多く在籍する世界最大級の学生NPO組織であるアイセックに加入しました。3年目には日本委員会副委員長に選出され、学業との両立は難しいと思い、1年間休学して組織運営に専念しました。日本の学生を代表する一員としてアジアの国々を訪れた時に愕然とする格差を目の当たりにし、この体験が、開発途上国で本当にサポートを必要としている人々の役に立つ仕事をしたいと思う原点となりました。その頃に読みあさった非営利組織の経営を考える書籍や論文から得た知識や、アイセックの運営に携わった経験などは、ADBで日々の業務に取り組んでいく上での糧になっています。

エネルギーは、水、食糧と共に人間の暮らしを支える基礎要素であり、エネルギー不足は紛争にもつながります。例えばアジアの途上国がより輸入燃料に依存するようになると、日本のような無資源国の安全保障にも影響をもたらします。自給自足のコミュニティーを増やし、エネルギー問題を抑制する一助となることで、自分も世界に貢献できるのではないかと当時の私は考えました。そこで大学院でエネルギー環境政策を学ぶことを決意し、米国のデラウェア大学の、留学生比率が6割を越える国際色豊かな修士プログラムを選択しました。

修士号を取得後、まずは将来自分のキャリアの軸となる専門性を身につけようと思い、ワシントンDCにある省エネルギー分野を専門的に扱うシンクタンクに就職し、エネルギー効率の比較分析や今後のエネルギー政策に関する提言、開発途上国への技術支援などに携わりました。その後、活動の幅を広げるため、米国オレゴン州にあるエネルギーと気候変動問題を専門とするビジネスコンサルティング会社に転職し、アジア地域を担当しました。電力・ガス会社に新規案件の形成をはじめとするビジネス提案や、当時発足しつつあった排出権取引市場の戦略的活用に関する各種アドバイスなどを行い、1年のうち半分は日本や中国、タイなどで過ごしました。

ADBとの出会いは国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)会議の場でした。そこで発表したアジア途上国における排出権を活用した気候変動緩和案件の提案がADB職員の目に留まり、声をかけられました。このときオファーされたポジションがADBにおける初めての気候変動分野担当職であったことを後ほど知らされました。

ADBでの担当業務

2015年より東南アジア局エネルギー課に在籍し、最初の5年間はインドネシアやフィリピン、ベトナムの政府やそのエネルギー関連公社に対し、電力インフラ整備のための融資業務を担当しました。また、電力セクターにおける制度改善やサービス向上に向けた政策協議などを手掛けてきました。昨年末には、課長に選任され、現在はASEAN地域の業務全般を統括し、交通や都市セクターチーム、および民間部門業務局との連携にも注力しています。入行当初はADB初の気候変動のための要員であったということもあり、仕事は多岐に渡り、ADBの気候変動業務の戦略策定や重要会議における総裁の発言概要の作成、開発途上加盟国の気候変動緩和対策に関する提言、ADBが管理し、運用する気候変動対策基金の資金調達業務や人員増強のためのリクルーティング業務など、気候変動と名のつく仕事のほとんどに関与しました。

キャリア・エピソード

ADBキャリアのハイライトとして真っ先に思い浮かぶのは、2011年頃、ドイツのボンに本部を置くUNFCCC事務局に、ADBの代表として9ヶ月間派遣された経験です。世界的な規模で気候変動対策基金を作り上げるために、環境エネルギー分野や災害対策など、幅広い知識と専門性、そして資金運用の経験などを兼ね備えた局長級までを含む関係者が集結し、50年後の未来を見据えて、世界に寄与するファンドはどうあるべきかを連日議論しました。ガバナンスの枠組みや案件審査に係るガイドラインの策定に関する文書の作成など、各国の交渉官が議論するための資料などを準備しました。その時の感覚はまるで開発金融分野の気候変動オールスターチームに、運良く補欠で入れてもらえたような気持ちでした。多岐に渡る深い知見を持つメンバーから、ただひたすらその知見をスポンジのように吸収し、自分の専門であるエネルギーやカーボンプライシングに関わる分野で最大限貢献できるように心掛けました。あれほど貴重な体験は今後なかなかできないのではないかと思います。

SDGsへの取組み

SDGsの中で、エネルギー分野は7番目の目標に該当し、すべての人々に安価で信頼性の高いエネルギーへのアクセスを確保することや、再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させることなどが挙げられています。その他にも貧困削減(SDG1)やジェンダー平等の実現(SDG5)、気候変動対策(SDG13)にも取り組んでいます。特にジェンダーに関しては途上国のエネルギー分野では保守的な人がまだ多いのが現状です。そこで案件形成プロセスの中で地域コミュニティーとの対話の際に、より多くの女性から意見を募り、ジェンダー専門官の力を借りながら、チーム一丸となってジェンダー平等化への突破口を導きだす努力をしています。その甲斐もあって、昨年は初めて全新規融資案件に具体的なジェンダーターゲットを組み込むことができ、ブレークスルーの1年になりました。

SDGsを進めていく上で、パートナーとの協調は非常に重要になります。担当した案件はすべて協調融資かナレッジ面でのコラボレーションを行っています。途上国への提言を行う際には、声を共にし、「ワンボイス」で、そのメッセージを発信し続けることが大切です。そのためには、セクターにおける調査研究や分析を行う段階で、カウンターパートと意見交換を密に保つための努力が不可欠です。本当に途上国のために役立ちたいのであれば、それ以外に有効な道はないと思っています。

仕事のやりがい

ADBでやりがいを一番感じるのは、やはり新規案件や特別なイニシアティブの立ち上げなどを通じて、チームの一員としてADBの貢献を実感できるときです。アジア・太平洋地域の国々や欧米諸国など、ADB加盟国出身の職員が入り混じった中で、意見をぶつけ合いながらも課題を一つひとつ克服していくときの感覚は、チームスポーツが大好きである私にとってはたまらない喜びを感じる瞬間です。また、クライアントである途上国に対して開発支援を行う際、すべてのステークホルダーの立場を考え、それぞれが納得する最適な解答を導き出すことが求められるので、ADBが内包する多様性をどう活かすかが、その案件の成功を左右します。チーム内で求められる役割を自らが果たすとともに、様々な専門性を持つ職員がお互いを補完し合える関係は、まさに信頼関係の上で成り立っており、自分が目を開いてさえいれば常に成長できる環境にいるということに、日々感謝しながら仕事をしています。

求められるスキルや経験

ADB業務で必要なのは、専門性はもちろんのこと、一番はコミュニケーション能力でしょうか。特にコンサルタントの場合は「英語でレポートを書く力」が大事になると思います。また、コンサルタント同様、ADBの職員に求められるのは、ベンチマーキングとローカライゼーションを行うための知識と経験です。ベンチマーキングは、クライアントとなる相手国が他の国々や地域と比較してどの程度のパフォーマンスレベルにいるのか、また、なぜそれらができているのかという理由やプロセスも含めて分析するとともに、ベストプラクティスはどういうものなのかを考察します。またローカライゼーションとは「日本では」や「ヨーロッパでは」に留まらず、相手国の背景や制約条件、利害関係などを理解したうえで、実施可能な最適解を導き出すための話し合いを繰り返しながら提案する能力を意味します。

特に若い人にはどんどん国外に出て経験を重ね、その国をより深く理解するために、言語も学んでほしいと思います。私も中国で省エネの仕事をしていた頃には中国語、ジャカルタ駐在時代はインドネシア語を学び、流暢と言える会話力にはとても及ばないながらも、対人コミュニケーションや異文化理解を通じて得たものが格段に増えたことを実感しました。

プライベート

趣味はサッカーやスキー、将棋や旅行です。入行してからもADBサッカークラブでプレーし続けています。最近は子供が藤井聡太プロに憧れて将棋を始め、どんどん上達しているので、こちらはついていくのに必死です。朝から夕食まで仕事をし、その後は、親子で1対1の真剣勝負です。毎日脳みそがヘトヘトな状態で眠りについています。