太平洋局大洋州地域事務所長の立入政之さんに聞く

Inside ADB | 2021年2月26日

キャリアパス

一橋大学経済学部→海外経済協力基金(現JICA)、その間シカゴ大経済学部(Ph.D.)へ留学→ADB入行(南アジア局→戦略政策・パートナーシップ局→現職)

最初に、国際問題に関心を持つきっかけとなったのは、1991年の湾岸戦争でした。当時、私は田舎の高校生で、インターネットも普及していない時代でしたので、海外を意識することはなかったのですが、テレビ中継であまり自分と歳の変わらない若者が従軍している映像を見て衝撃を受けたのを覚えています。また、世界を見渡すと、経済と産業の発展がまだ進んでいない開発途上国に暮らす人々のほうが断然多く、当時は日本のODAが世界第一位だった時代でもあり、開発協力の第一線で活躍することを志すようになりました。大学では経済学を専攻し、海外経済協力基金に就職した直後の1997年には、アジア通貨危機が起こりました。その頃の私には、まだ知識や経験も不足しており、それらの苦い経験を踏まえて、その後シカゴ大学で博士課程まで進み、経済学を学びました。経済理論を直接仕事で使うことはこれまであまりなかったものの、経済や社会事象を分析する際の枠組みや、計量経済学によるデータ分析の手法を学べたことは非常に有用でした。

ADBでの担当業務

入行後は南アジア局都市開発課に配属され、インドやバングラデシュの水道案件などを担当しました。特にインドはタフな政府カウンターパートとのやり取りも多く、相応の交渉力とチーム統括力が求められるプロジェクトマネージャーとして鍛え上げられました。その後は戦略政策・パートナーシップ局に移動し、ADBの業務予算の管理や商品開発に取り組みました。現在は、フィジーにある大洋州地域事務所の所長として、南太平洋地域における7カ国(クック諸島、フィジー、キリバス、ニウエ、サモア、トンガ、ツバル)を担当しています。各国向けの国別支援戦略(Country Partnership Strategy:CPS)の策定、プロジェクトの形成・執行管理、政府との折衝などが主な業務を占め、この1年間は、新型コロナウイルスのパンデミックへの対応に追われており、医療・衛生キットの確保、所得維持などの施策を支える財政支援、経済復興に向けた政策支援などを行っています。

太平洋の島嶼国は観光への依存度が高い国が多く、パンデミックによる渡航制限が経済に深刻な影響を及ぼしています。例えば、2020年のフィジーの経済成長率は、マイナス20%と予測されています。当面の課題はパンデミックへの対応と経済復興になりますが、中長期的には気候変動対策が大洋州での最大の政策課題になります。島嶼国は、気候変動による海面上昇、海岸浸食などに直面しており、その影響は年々深刻化しています。また、サイクロンが多発する傾向にあり、2019年4月の「ハロルド」、去年12月の「ヤサ」、4月の「アナ」などが、住居やインフラ、作物などに重大な損害を与えました。これから本格化していくコロナ禍からの復興に向けて、感染を防ぐための支援と並行して、災害に強い社会の形成を目指すために、インフラの強靭化(Resilience)、「より良い復興」(Build Back Better)の具現化に向けた活動を推し進めていきます。

キャリア・エピソード

海外経済協力基金およびADBで合計6年近くバングラデシュの水セクターを担当し、主に上下水道整備事業などを手掛けました。水道施設の増強や水道事業者の経営効率の改善に取り組み、無収水を削減しながら都市部の水道普及率を高めることに貢献できたことに手応えを感じています。また、水道事業者を対象とする政策・制度整備には、技術的な知見のみならず、当該国に関する深い理解と関係者との信頼関係にもとづいた息の長い取り組みが求められます。長期的な視野にたって、一つの課題にじっくり取り組めたことは、その後の業務において大きな糧となっています。

SDGsへの取組み

ADBは開発途上加盟国の経済社会開発を目的としており、基本的にすべての業務はSDGsを支えるものと思います。日本をはじめとした二国間のドナー、そして世銀や国連諸機関などの国際機関とは日常的に協働しており、SDGsはその際の大きな枠組みとなっています。ADBは経済インフラを支援しているイメージが強いかもしれませんが、保健や教育といった社会セクターの支援も拡大している他、ジェンダーの平等の促進はADBの優先課題の一つでもあります。さらにADBは、気候変動への対応、気候・災害に対する強靭性の構築や、環境の持続可能性の向上への取り組みを強化するために、2030年までに業務案件の75%以上を気候変動の緩和と適応に係る取り組みに充てる他、再生可能エネルギーの普及を含む気候変動対策に合計800億ドルの資金を提供するという目標を掲げています。

仕事のやりがい

ADBではインパクトの大きい仕事ができることが一つの魅力だと思います。特に現在担当している大洋州の島嶼国は経済規模も小さく、ADBの支援がその国全体に大きな影響を与えることも多々あります。各国の政策決定者との対話や議論も仕事の大きな部分を占めており、大きなやりがいを感じるとともに、緊張感をもって仕事をしています。また、ADBの職員は、国籍や文化、そしてそれぞれが有する経験や専門性も非常に多様です。議論がヒートアップすることも多々ありますが、それぞれが強みを活かしつつ、役割を全うしていくことで、チームとして結果を出していく過程も、国際機関の仕事の醍醐味なのではないかと思います。

求められるスキルや経験

ADBの採用は、関連分野でキャリアを積んだ人材を対象とした中途採用が主となっているので、それぞれの専門分野で一定のスキルと経験があることが前提となります。様々なバックグラウンドをもつ同僚とともに仕事をするので、そういった環境を楽しめることも重要だと思います。さらにADBは、日本人の比率が多い国際機関なので、様々な分野で活躍している先輩が多くいると思います。

職員としてだけでなく、ADBが実施する事業にコンサルタントや施工者としても参加する機会も多くあります。ADBのインフラ事業では、質の高いインフラ投資を円滑に実施するため、その評価に価格だけではなく、技術点を加味した入札手法を導入しつつありますので、日本の方々にも積極的に応札していただければと思います。

プライベート

ADBの本部はフィリピンのマニラにあるものの、現在はフィジーに住んでおり、地の利を生かしてスキューバダイビングを楽しんでいます。あとはバスケやゴルフで体を動かすようにしています。コロナ禍の前は担当国を飛びまわっていたのですが、今は出張もできませんので、ずいぶん時間の余裕ができた気がします。