戦略政策・パートナーシップ局長の木村知之さんに聞く

Inside ADB | 2020年5月28日

キャリアパス

京都大学法学部卒→富士銀行(現:みずほFG)→米ノースウェスタン大学(経営学修士)→海外経済協力基金(現:JICA)→ADB(出向)→国際協力銀行(JBIC)→ADB入行(南アジア局 →予算・人事・経営システム局→ベトナム現地事務所 →戦略政策・パートナーシップ局)

学生時代にアジアや中南米を旅して回り、視野を広げ、先進国では当たり前のことが途上国では当たり前でないことに新鮮な驚きを感じました。世界を見渡すと、経済発展が遅れた開発途上国に暮らす人々のほうが圧倒的に多く、途上国や開発に関わる仕事に携わりたいという思いから、1986年の当時、国際業務を拡大していた富士銀行に入行しました。国内企業向けの融資や外為業務を経験した後、米国で経営学修士を取得、ニューヨーク支店でM&Aのファイナンスなどを手掛けました。より直接的に途上国の開発の仕事に携わるため、30代前半で海外経済協力基金(OECF)に転職し、インド、ネパールへの援助業務、経営企画、また国際協力銀行(JBIC)の発足に携わった他、2000年にはADBへの出向も経験しました。2006年にJBICからADBに入行し、南アジアの電力セクターの改革やADBの戦略的要員計画の立案に携わり、ADBベトナム事務所長を務めた後、2015年に現在の戦略政策・パートナーシップ局に移動し、2017年から現職です。

ADBでの担当業務

戦略政策・パートナーシップ局は、国際経済情勢を注視し、変化し続けるアジア・太平洋地域のニーズを見据えてADBのビジネスモデルを組み立てていくところです。ADBの開発途上加盟国向け業務の全体的な方向性やポリシーの策定、そしてそれを実施していくための業務体制の構築を行っています。その際には、ADBのガバナンスの仕組みを通じて、総裁やADBの加盟国・地域を代表する理事に、そうした戦略的判断や組織運営に係る決断をする上でのオプションを提示します。組織を運営していく上で、ADBのオペレーションに係るリソースをいかに効果的、効率的に配分していくかが極めて重要になり、様々な業務を担当するシニアマネジメントとの議論を通じて、ADBのビジネスのどこをどのように改善していくべきかを常に考え、実行に移しています。

加えて、特定の戦略的課題や低所得国、脆弱国、島嶼国を対象とした無償資金協力を行う仕組みである「アジア開発基金(ADF)」の増資交渉の際には、加盟国政府の大臣や幹部との協議を通じて、ADBの戦略や方向性について共通の理解を取り付けることが極めて重要になります。また、国際開発金融機関(MDBs)としての中立性を活かした「オネスト・ブローカー(公正な仲介者)」としての役割を果たすべく、開発途上国政府に対して政策提言と組み合わせた能力強化支援事業などを主導する立場にあります。さらにG20や気候変動、防災に係る国際枠組み等を通じて、開発アジェンダに対する具体的なインプットを行い、会議の場で参加国政府に対して提言をすることも求められます。

また、アジア・太平洋地域のインフラ需要を満たすためには膨大な資金が必要であり、ドナー国や他の国際機関、民間セクター等とのパートナーシップを積極的に促進しています。ADBがMDBsとしての責務を果たすことにより、クライアントやパートナーから優先的に選ばれる存在であり続けられるように、これからも緊張感を持って尽力していきたいと思っております。

キャリア・エピソード

開発の仕事は、一言でいうと途上国の能力強化を目的とした協働作業です。開発途上国の経験の蓄積や能力強化を手伝いながら、相手目線に立って、辛抱強く、一緒に問題を解決していくスタンスが求められます。その意味で、ADBに入行して初めて担当したインドにおける電力セクターの改革に関わる仕事はとても印象的でした。インドでは、慢性的な電力不足と電力会社の非効率な経営が経済成長の大きな制約となっていました。政治的・財政的な制約がある中で、ADBは政府から包括的な改革プログラムの作成と支援を求められました。電力セクターの料金設定や電力会社の財務リストラなどを州首相や大臣、専門家と協力し、政治的、法的、そして社会経済的にデリケートな問題を考慮しながらプロジェクトを進めていく必要がありました。利害を抱えたステークホルダーをまとめてプロジェクトを管理していくことの大切さを肌で感じることができました。

仕事のやりがい

アジア・太平洋地域は目覚しい成長を遂げ、極度の貧困は大幅に減少したものの、未だ1日1.9ドル未満で暮らす人々が2億6千万人ほどいます。私たちの世代で絶対的貧困をなくすためには、そうした貧困層の人々に対して支援を続けていくことだけでなく、教育の機会や健康的な生活を確保するための福祉、そして質の高い雇用を保証することが大切だと思います。また、人的資本に対する投資と住民参加型の開発によって、はじめて貧困削減が実現すると思います。この様な取組みに携われることにやりがいと重い責任を感じています。

2002年、ADBに出向している時にアフガニスタンの復興支援が始まり、私は世界銀行と協働して電力セクターの復興計画の策定に関わりました。非常に厳しい環境での仕事でしたが、まさに国づくりを支援しているという充実感が得られ、この仕事を選んだことは間違っていなかったと実感したことを覚えています。また、ADBのベトナム事務所長として4年間をハノイで過ごしましたが、赴任当時20%を超えるインフレに苦しんでいたベトナムが、危機を乗り越えアジアの中でも高成長を続ける優等生として立ち直っていった時期に、ADBを代表してそのお手伝いをできたことも大変印象に残っています。

現在、新型コロナウイルス感染症の拡大により、各国の経済は相当な影響を受け、人々の生活がおびやかされる中、特に貧困層や脆弱な人々、そして女性への影響が心配されるところです。貧困や格差、そしてジェンダー平等について、これまで進めてきた歩みが後退する恐れすらあります。新型コロナウイルスのパンデミック発生当初から、ADBは精力的に開発途上加盟国を支援しています。4月に発表した200億ドルというかつて例を見ない規模の支援パッケージの下、ADBの支援は、すでにアジア・太平洋地域において、低賃金労働者や中小企業など、最も弱い立場にある人々に振り向けられています。こうした支援は、途上国政府や民間セクターに力を与えるとともに、マクロ経済への深刻な影響に対処し、社会的弱者の緊急のニーズに応えるものであると信じます。

ストラテジー2030とSDGsへの取組み

ADBの2030年までの事業戦略である「ストラテジー2030」は、戦略政策・パートナーシップ局が中心となり2018年に策定したものです。この戦略の7つの優先課題は、各国の多様化する開発のニーズに対応すると同時に、SDGsなどの開発アジェンダ、気候変動や防災枠組みなどの重要な国際公約にリンクし、その達成に寄与しています。

貧困削減や格差の縮小への取組みに加えて、ADBは同戦略の下、例えば、ジェンダー平等の促進や気候変動対策に寄与する業務の割合を2030年までにそれぞれ75%にするという明確な目標を掲げています。

ADBは各国の開発計画やストラテジ−2030を踏まえながら、カウンターパートとの対話を通じて、国別支援戦略や国別業務計画を策定しており、これらに基づき、SDGsと整合性の取れたプロジェクトやプログラムに対して支援を行っています。SDGsがテーマ型のターゲットであるように、ADBの業務においても、運輸・交通、エネルギー、水・都市、農業、保健、教育のような異なるセクターの擦り合わせを通じた、マルチセクター型のアプロ-チを採用し、問題解決を前提としたプロジェクトの設計を行っています。

求められるスキルや経験

ADBでの仕事は人に向き合う仕事であり、相手の信頼を得られるかどうかが成功の鍵となります。我々が支援するプロジェクトは、日本人から見れば規模の小さな単純なものでも、その国にとっては失敗が許されない、まだ経験のない困難な国家事業であることが珍しくありません。そのような仕事に携わるにあたって最も大切なことは、謙虚さ、柔軟性、忍耐力、コミュニケーション能力だと思います。

相手の目線に立って一緒に悩んで考える姿勢、日本人にとって当たり前のことがそうでないこともあるという難しさを理解する柔軟性、そして結果がすぐに出なくても粘り強く取り組む忍耐力、これらが信頼を勝ち取り、時には厳しい意見にも耳を傾けてもらい、一緒に問題解決に取り組んでいくために不可欠であることはどの国でも同じです。

そして、これらのベースになるのがコミュニケーション能力です。ADBのスタッフはADBの外でも中でも多様な価値観や社会文化的背景を持った人と仕事をしなくてはなりません。英語でのコミュニケーションが基本ですが、その際重要なのは相手の意見によく耳を傾けると同時に、自分の考えを論理的に明確に表現し、異なった意見を持つ人と建設的な議論を行い結論を導き出す能力です。それは必ずしもネイティブのように流暢に書き、話すということとは異なります。たとえ母国語が英語であっても、言語明瞭意味不明瞭では仕事になりません。また、コミュニケーションのスタイルは、その内容が技術的なものか、戦略的なものか、また人事管理に関わるようなセンシティブなものかで変わってきます。そういうTPOに合わせた高度なコミュニケーション能力が要求されます。

プライベート

ADBは数あるMDBsの中でも途上国に本部を置く数少ない機関の一つです。確かに欧米の生活環境とは比較にならない不便さもありますが、スタッフがそういう環境で日々の生活を送っていることが、「ADBのスタッフは上から目線ではなく、自分達の立場に立って一緒に考えてくれる」とよく言われる一つの理由ではないかと思います。また、マニラでの生活は実はそんなに悪いものではありません。ゴルフ、テニス、ダイビングなどが趣味の人にとっては、こんなにコスパのいい国はそうないと思います。最近は日本に旅行するフィリピン人が急増し、味にうるさい客が増えたせいか、マニラ市内の日本食レストランの種類と質は格段に上がりました。仕事柄、1年の3分の2はマニラで、残りは出張でアジアの途上国と欧米諸国で過ごしますが、こういう生活スタイルも変化があって退屈しません。ADBはテレワークの体勢が整備されているので、今後スタッフのライフスタイルに合わせてワークスタイルもより多様化していくのではないかと思います。