• 東アジア局シニア社会セクター・スペシャリストの内村弘子さんに聞く
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東アジア局シニア社会セクター・スペシャリストの内村弘子さんに聞く

Inside ADB | 2020年07月28日

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キャリアパス

学部・修士では開発経済学を専攻し、まずは、机上での発展途上国との出会いとなりました。また、大学生時代に交換留学生として米国で学ぶ機会を得たことは、その後の進路を決めるうえで大きな意味を持ちました。シンクタンクを経て、途上国を対象とした研究所に移り、そこでは、中国、香港、インドネシア、ベトナム、フィリピン等を対象とした調査や研究に携わり、マクロ経済、財政構造、医療保健制度、年金、社会保障政策等について掘り下げた分析を行いました。この10年を超える研究者としての経験が、その後、ADBで研究とは異なる仕事をするうえでも、私のキャリアの基礎的な土台になっています。また、研究所時代には、海外派遣として、経済開発協力機構(OECD)の開発センターで勤務する機会を得ました。OECDは先進諸国を加盟国とする国際機関ですが、開発センターは開発途上国との政策対話や共有知識の構築を目的とし、OECDの非加盟国である開発途上国も同センターの(非加盟国)会員となっています。同センターでの勤務経験が国際機関に関心を持つきっかけとなりました。帰国後も研究所において中国やフィリピンなどの社会保障・財政政策に関する研究を進め、また博士号を取得し、途上国という現場で直接開発に関わる仕事への転職を希望するようになりました。その後、2012年にADBに入行し、中国、モンゴルを対象とする東アジア局の財政、金融、ガバナンス、地域協力を担当する部署に着任し、その後、現在の部署である社会・都市開発を担当する課に移り、主に社会開発・保健関係の案件を担当しています。

ADB での担当業務

ADBには、東アジア局、東南アジア局、南アジア局、中央・西アジア局、太平洋局という5つの地域局があります。この地域局と民間部門業務局がオペレーションの前線として、それぞれの対象とする開発途上国に向けた貸付案件や技術協力案件の立案・作成、そしてその実施を担当しています。ADBは各国政府との政策対話を重視しており、ADBと各対象国との開発戦略の基本として、地域局では、それぞれの国とパートナーシップ戦略(Country Partnership Strategy:CPS)を作成します。そして、このCPSの開発戦略を基に、各案件レベルでは具体的な開発課題を組み立てていきます。そうすることによって、一つずつの案件が全体として、戦略的な開発・発展方向を推進できるようになります。

現在、私は、そのような貸付案件の立案、作成、そして実施を主な業務として担当しています。加えて、関連する政策研究・助言や能力開発を目的とした技術協力案件の立案・作成・実施も担当しています。分野としては、ガバナンス 、地域協力、社会保障、社会開発などをこれまでにカバーし、ここ数年は特に、中国向けの介護・高齢化に関する案件に注力しています。高齢化はアジア諸国でも急速に進み、介護問題は一つの大きな課題となってきていますが、ADBの中でもまだ比較的新しい分野となります。相手国となる中国でも地方政府にとってはまだ新しい課題であり、そういった新しい課題について、案件を立ち上げていくことには忍耐強く話し合い(コンサルテーション)を重ねていくことが重要です。高齢化は中国に限らず、東南アジアでもすでにその進行が急速に進んでおり、高齢化の速度ではベトナムなどは中国のそれを上回っています。アジア諸国の経済社会にとって次の大きな課題として、高齢化への対応に、今後さらに支援を拡大し、知見の共有を図っていくことが重要だと考えます。

キャリア・エピソード

貸付案件の立案・作成・実施は、まさに日々、相手国政府の方々との話し合い、議論を重ねることが必要となり、忍耐が求められる仕事です。特に、上記の高齢化・介護に関する分野では、案件の対象となる国・地方では、病院や社会福祉関連の施設でとりあえず介護が必要となる高齢者を受け入れているというのが主な状況です。そのため、高齢化・介護に関する案件を立ち上げるためには、まず知識の共有に向けた対話を積み重ね、その上で案件の対象となる地方の高齢化・介護に関する開発課題についての共有認識を築くところから始めなくてはなりません。中進国も含め、アジア諸国では、人口構成の急速な変化に、社会経済の変化が追いつかないというのが現状です。日本のような標準化された介護制度もありません。このような状況のもとでは、制度設計、政策の実施、そして具体的な施設の建設や人材の育成と多岐にわたる課題を同時に進めていくことが必要となります。貸付案件のもと、施設建設などとともに制度設計や政策提言等のサポートを実施したり、加えて、技術協力によってさらに必要な政策の立案や改革のサポートを実施することによって、総合的な支援を実施できることがADBの強みではないかと考えます。このような新たな分野での経験・知見のADB内部での共有、さらに他の開発パートナー、そしてADBの開発途上加盟国との共有を進めていくことも重要な課題となると考えます。

仕事のやりがい

前職の研究職と比べ、ADBのオペレーションの仕事では、開発の対象となる政府の人々と直接関わるというところに魅力を感じています。それは一方で、非常に忍耐を要する仕事でもあり、研究者同士の話とは全く異なります。また、貸付案件では、具体的に介護施設や病院(一つの特定疾患ではなく、いくつかの慢性疾患を同時に患うことの多い高齢患者に対応した医療を提供できる病院等)を作り、また介護サービスの基準や要介護認定スキームの構築、人材育成のサポートも実施します。これらはとても具体的な成果であるとともに、直接、高齢者やその家族、地域に影響を与えるものでもあり、その責任を大きく感じます。専門的知識、対話能力、柔軟性、忍耐をもって、地道に相手政府と対話・議論を積み重ねることによって、実のある案件を作り、実施できると考えます。オペレーションの仕事は、こういった貸付というプロジェクトを通して、開発を進めるという開発銀行ならではの仕事であり、その醍醐味だと思います。

ストラテジー2030とSDGsへの取組み

ストラテジー2030は、ADBの2030年までの事業戦略として策定され、開発途上加盟国における開発に関する優先課題を選定しています。さらに、ストラテジー2030は、国際的な開発戦略である持続可能な開発目標(SDGs)とADBの開発戦略をリンクし、ADBの業務がSDGsの国際公約達成に寄与するように組み立てられています。オペレーション・レベルでは、各国のCPSの作成にあたって、ストラテジー2030、そしてSDGsとの整合性を確認し、各案件レベルでは、それぞれの案件の開発課題はストラテジー2030とCPSが示す開発戦略と合致するように設定され、さらにSDGsのどの項目とリンクするかを確認することが求められます。この様に、ADB全体の開発戦略としてのストラテジー2030、各国レベルの開発戦略としてのCPS、そして、各案件レベルでの開発課題と、ADBの業務の全体を通して、SDGsとリンクし、その達成に寄与するように組み立てられています。SDGsで保健は一つの課題分野とされています。現在、年始には思いもしなかったコロナ感染のパンデミックの状況下にあります。途上国にとってコロナの影響は非常に深刻なものです。保健、公衆衛生、ヘルス・セキュリティという課題についてのグローバルな関心と継続的な政策議論、そして、開発途上国では長期的視野に立った保健分野の向上・開発を目指し、具体的なロードマップを考え、それへの関心を継続することの重要性が一層増していると考えます。

求められるスキルや経験

ADBに限らず、国際機関では、多くが転職組だと思います。そのため、ADBで働くスキルというよりも、様々な仕事をするうえでの基盤となるものをもっていることが重要ではないかと考えます。例えば、専門分野としてエンジニア、財務、保健、教育、エコノミスト等々、何かの分野でのプロとしての経験を持つ、また基礎としては様々な仕事・業務に取り組む際の方法論のようなものを自身の中にもっていると強みになるのではないかと思います。そして、応用力、対話力、柔軟性、さらに、先述の忍耐力も必要だと考えます。

介護・保健に関する案件において、日本の専門家の方々と多く仕事をする機会を得ています。介護や保健政策に関する技術協力案件では日本の介護・保健分野における先生方にお世話になっています。さらに、介護におけるITの役割や世代交流型地域開発については、日本の企業や開発コンサルの方にもお世話になりました。日本の方々は丁寧でプロとして信頼をおけると考えます。一方で、諸外国の企業と比べ意思決定に時間がかかる傾向があるかと思います。結論を出すまでの時短と英語による発信力が向上すると、今後、日本の方々の活躍の場が一層広がっていくのではないでしょうか。

プライベート

現在、ADB本部に勤務しており、家族とともにマニラに在住しています。仕事と子供を持つうえで、マニラで生活することはとても助けとなっています。東京でキャリアを続け幼児を抱えた生活の大変さを実感しました。両親、特に母の全面的バックアップのもと、やってこれたことに感謝です。ADBの業務は大変ですが、マニラでは家事・育児については人手があります。コロナの影響を受ける前までは、毎月半分は出張に出ていたように思います。そのような生活も家族の支えと、マニラでの家事・育児のサポートによって成り立っています。また、マニラでの生活のよいところは、色々な人がいて定番ということを気にしなくてよいというか、それがないところです。また、年を通して夏服でよいので楽です。そして、一年中、スイカやパパイヤを楽しめます。日本と比べ、住居等での故障や不具合もありますが、あまり深刻に考えずに、大体のところで色々なことが回っているように思います。あまり深刻にならないようにするというのがここでの生活のキーだと思います。

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