フィリピン、マニラ(2019年5月23日)-アジア開発銀行(ADB)は、マニラ北部郊外のマロロスから、ルソン島中部にあるクラーク経済特別区とクラーク国際空港を結ぶ53.1キロメートル(km)の旅客鉄道の建設に対して、27億5,000万ドルを上限とする融資を承認した。

マロロス-クラーク鉄道は、フィリピン政府がマニラ北方のタルラック州ニュークラークシティーから、マニラ南方のラグナ州カランバまで、163kmの区間で建設を進める郊外鉄道網、南北通勤鉄道(NSCR)プロジェクトの一環で、2025年までの完工を目指している。

マロロス-クラーク鉄道の完成により、安全で信頼性も高くかつ低料金の公共交通網が実現し、1日あたり総乗客数は、2025年までにマニラークラーク間で34万2,000人、マニラーカランバ間で69万6,000人が見込まれる。現在、マニラ首都圏からクラーク国際空港までは、自動車またはバスで2~3時間かかるが、鉄道が完成すると、1時間弱にまで短縮される見込みである。2022年には一部で開通する予定。

マロロス-クラーク鉄道プロジェクトにより、マニラ首都圏で慢性化している交通渋滞の緩和、大気汚染の低減、輸送・物流コストの削減、ルソン島中部における経済成長、そして首都からパンパンガ州クラークなど北部の成長センターへの人口移動の促進が期待される。

中尾武彦ADB総裁は、「ADBとフィリピンの強固なパートナーシップは、この3年間で一層強化されてきた。フィリピン政府の『Build, Build, Build (BBB)』プログラムは、喫緊の課題であるインフラへの投資を確実に加速するものであり、インフラ投資の対GDP比は10年前の2%弱から現在は6.3%へ拡大している。2022年には目標の7%を十分達成できるだろう。マロロス-クラーク鉄道は、このBBBプログラムにおいて中核的なプロジェクトの一つである」と語っている。

また、「同プロジェクトは、ADBにとって、一件のインフラプロジェクトに対する融資案件としては過去最大であり、開発援助の観点からこれがADBの本部があるフィリピンに対するものであるということも光栄に思う。また、このプロジェクトにより、ライトレール・トランジット(LRT:次世代型路面電車)や、メトロレール・トランジット(MRT:大量高速輸送)、地下鉄向けのその他の投資案件と合わせて、マニラ首都圏に鉄道による輸送を復活させることになる」とも述べた。

ADBのフィリピンに対する国別支援戦略(2018年~2023年)では、教育や金融包摂、経済政策改革などの重要投資案件とともに、BBBプログラムに対して大規模かつ広範囲な支援が予定されている。

マロロス-クラーク鉄道プロジェクトでは、土木工事への融資を行う予定。これには高架鉄道の駅、橋梁、高架橋、およびクラーク国際空港地下駅までのトンネル建設が含まれる。またフィリピン政府が、調達や環境、住民の移転に係るセーフガードに関して国際基準を適用するように支援を行う。

また、国際協力機構(JICA)により20億ドルの協調融資が行われ、車両および鉄道システムの資金に充てられる。

マーカス・ロスナーADB首席交通・運輸専門官(東南アジア担当)は、「JICAとの協調融資によって、それぞれの専門的能力と知識がが活用され、フィリピンにおける世界クラスの鉄道建設を可能とする」と述べた。

同プロジェクトは、二区間の建設事業で構成される。一つはブラカン州マロロス市と力強い成長センターのクラーク地区を結ぶ51.2kmの区間、もう一つはNSCRとマニラのブルメントリット駅を結ぶ1.9kmの区間で、ここにはLRT-1線の高架駅が建設される。

各駅の施設はマルチモーダル対応で、通勤客は公共バスやジープニーから鉄道に速やかに乗り換えることができる。クラーク国際空港駅は地下とすることで、現在建設中の空港ターミナルや、将来増設された場合の新ターミナルと短距離で結ばれる。

また高架方式を採用することで、路線周辺の地域社会に対する影響が軽減され、生活の妨げにならないだけでなく、洪水によるリスクも低減される。プレキャストセグメント方式の高架橋など革新的な工法を導入し、用地確保の必要性を抑え、工期を短縮する。建設は高度な技術を取り入れることで、列車の最高時速160kmを実現する。

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