フィリピン、マニラ(2022年6月9日) - アジア開発銀行(ADB)は、フィリピンのマニラ首都圏とカランバ市を結ぶ、約55キロメートル(km)の近代的な近郊鉄道路線の建設資金を支援するために、最大43億ドルの融資を承認した。南北通勤鉄道(NSCR)ネットワークの一部である南部通勤鉄道プロジェクトへの投資は、ADBのアジア太平洋地域でのインフラ融資としては過去最大規模となる。

南部通勤鉄道が完成すれば、高速の公共交通機関が利用者に提供され、交通渋滞の緩和やフィリピンにおける気候変動対策に沿った温室効果ガス排出量の削減にも寄与する。この事業は、現在建設中の、ADBが融資する首都北部のマロロス-クラーク鉄道に続くものである。

東アジア・東南アジア・太平洋地域を担当する、ADBのアーメド・M・サイード副総裁は、「南部通勤鉄道プロジェクトは、手頃な価格で安全かつ信頼性の高い、高速の公共交通機関を利用者に提供する」とした上で、「このプロジェクトはADBのインフラ投資として過去最大規模のものであり、貧困削減や国民の生活向上、環境に優しく強靭性のある、高い経済成長の実現という、フィリピンが掲げる目標の達成を後押しする我々のコミットメントを反映している」と述べた。

このプロジェクトには、高齢者や女性、子どもや障がい者を含むすべての人が安全にアクセスできるように設計された18の駅の建設と、カランバから今後整備されるマニラ首都圏地下鉄の駅まで直通列車を運行させるための接続トンネルの建設が含まれる。すべてのインフラは、災害に強く、台風や地震にも耐えられるように設計される。この事業により、現在車で2.5時間かかるマニラ-カランバ間の移動時間は、半分以下に短縮される。

NSCRは、建設期間中には35,500人以上の雇用、そして操業時には3,200人以上の正規雇用を創出することが見込まれており、新型コロナウイルスのパンデミックの壊滅的な影響からのフィリピン経済の回復の流れをさらに後押しする。この地域の連結性が向上することで、サプライヤーとの契約や新たなビジネスチャンスが生まれ、経済に大きな成長の乗数効果が期待される。ADBの調査によると、このプロジェクトの沿線地域の住民は、通勤時間1時間圏内で平均30万件以上の仕事にアクセスできるようになるといった改善が見られる見込みである。

ADBは、フィリピン運輸省(DOTr)に対して、インフラ準備・革新ファシリティ(IPIF)の枠組みを通じてプロジェクトの準備のための支援を行った。また、この融資により、実施機関であるDOTrの能力開発や組織の強化を支援する。鉄道建設には、浸水を避け、沿線地域への影響を軽減するために高架方式が採用される。また、影響を受けるコミュニティに対して、無償の技術協力資金が提供される。

南部通勤鉄道プロジェクトは、マルチトランシェ融資ファシリティの下、資金が提供され、最初のトランシェである17億5,000万ドルが今年から利用可能となる。第2、第3のトランシェはそれぞれ2024年、2026年に提供される予定である。また、ADBは、鉄道高架橋、駅、橋梁、トンネル、倉庫などの土木工事に融資を行うことになっている。国際協力機構(JICA)は、車両と鉄道システムに資金を提供している。

このプロジェクトは、フィリピンのインフラ・フラッグシップ・プロジェクト(IFP)の一つで、政府のインフラ開発プログラム「ビルド・ビルド・ビルド」の一環として実施されるものである。ADBが融資したその他のIFPには、2021年のマニラ首都圏橋梁プロジェクト、2020年のEDSAグリーンウェイプロジェクト、2016年のアンガット送水改善プロジェクトおよび2020年の追加融資、2019年のマロロス-クラーク鉄道プロジェクト、そして2017年のミンダナオ道路セクターにおける成長回廊改善プロジェクトなどがある。

ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。

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