【フィリピン・マニラ、2017年11月23日】 アジア開発銀行(ADB)が本日発表した新たな報告書『官民連携(PPP)モニター』によれば、アジア・太平洋地域の中で、成熟した金融市場や強固な国内金融機関、多様な資金調達源を持つ国ほど、官民連携(PPP)プロジェクトを実施しやすいとのことである。
PPPモニターは、ADB加盟国におけるPPP事業の実施にかかるビジネス環境の進展状況を定期的に調査し、PPP事業実施のための安定した環境を整備できるよう政府に情報と知識を提供するものである。今回の報告書が初版であり、アジア・太平洋地域の9カ国(バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、カザフスタン、パプアニューギニア、フィリピン、タイ、ベトナム)について調査を行った。同報告書は今後毎年改訂され、調査対象国も拡大される予定である。
PPPモニターは、政策担当者と投資家の双方にとって有益な、PPPのビジネス環境に関する詳細な情報とデータをそれらの推移を含めて提供するものであり、インフラ案件を実施する民間事業者にとっても、アジア・太平洋地域内のさまざまな国やセクターにおけるビジネスの機会を見極めるための参考となるものである。また、毎年の改訂を通じて、投資家の判断を左右する可能性がある重要な制度改革を知らせ、政策担当者にPPP事業環境の進展のモニタリングを促すものである。
中尾武彦ADB総裁は、「PPPは、アジア・太平洋地域諸国の発展に欠かすことのできないものである。ただし、PPP事業を成功に導くためには、それを可能にする環境が必要である。本報告書の内容は、政策担当者と投資家が十分な情報に基づいて意思決定を下し、リスクをより適切に管理し、より安定したPPP事業環境を整えるために役立つであろう」と述べた。
同報告によれば、調査対象9カ国の中で、インド、フィリピン、タイが最も成熟した金融市場を有しており、これら3カ国では、インフラ開発のために現地通貨建て長期融資(10年以上)が可能である。また、事業債の発行を含めて幅広い資金調達の選択肢がある。
中国は、融資の合意に達するPPPプロジェクトの数が最も多いが、民間企業の活用を増やすことにより、PPPをさらに拡大できる余地がある。
セクター別に見ると、PPP事業実施のためのフレームワークについては、エネルギー・セクターが最も成功を収めている分野である。調査対象国の大半で、火力発電と再生可能エネルギーによる発電が、PPPプロジェクトの大部分を占めている。水セクターもPPP投資の主要分野であり、中国ではPPPプロジェクトの40%以上を占める。
アジア・太平洋地域では、社会インフラ分野での民間参入はまだ比較的新しく、特に医療と教育についてはあまり進捗が見られない。こうした中、インドは医療分野のPPP実施例が数件あるなど、9カ国の中で最も進捗が見られた。また、インド以外の国々でも、社会インフラにおけるPPPプロジェクトの検討、準備が進められている。
PPPがさらに発展するためには、資金調達手段の強化、投資家の多様化、交通プロジェクトにおいては交通量の変動リスクの軽減、信頼度の高いPPP案件リストの策定、エネルギー分野以外へのPPP適用の拡大などが必要である。
ADB官民連携部のアレクサンダー・N・ジェット官民連携専門官は次のように述べている。「各国がPPP事業を進めていく上での課題を克服する方法はいくつもある。より有利な融資条件を引き出すために信用補完手段の利用を拡大すること、PPP契約における海外投資家の参加制限を緩和すること、さらに交通量リスク軽減のため、交通量ではなく運営実績に基づき、事前に設定された料金を支払う制度を導入することなどが挙げられる。」
「プロジェクトを選別し、優先順位付けができるよう担当機関の能力を強化することも、各国が信頼度の高いPPP案件リストを策定する上で役立つであろう。またエネルギー以外の分野でそれぞれ独自の規制を導入することで、外国為替リスクなど案件の投融資信頼性に関連する重要な懸念に対処できるだろう。」