フィリピン・マニラ (2018年7月26日) アジア開発銀行(ADB)理事会は、同行の広範なビジョンと変化し続けるアジア・太平洋地域のニーズへの戦略的な対策を定めた、2030年までの新たな長期戦略、「ストラテジー2030」を承認した。

中尾武彦ADB総裁は「アジア・太平洋地域は、過去半世紀において、貧困の削減や経済成長の面で大きな進歩を遂げてきた。だが、いまだ解決していない開発課題も残っている。我々は、『ストラテジー2030』の下で、融資、知識および関連諸機関との連携の力を結集し、極度な貧困の根絶を目指し、豊かで、インクルーシブで、気候変動や災害等による環境の変化に強い持続可能な地域の開発に向けて当行のビジョンを拡大する」と述べた。

ADBが目指すものは、持続可能な開発目標(SDGs)、開発資金アジェンダ、気候変動に関するパリ協定、仙台防災枠組などの重要な国際的取り組みに沿ったものである。アジア・太平洋地域の世界に占める比重の大きさを考えれば、これらを達成するには、この地域での成功がなくてはならない。

「ストラテジー2030」は、意欲的な世界の開発目標を、各地域それぞれの状況に合わせて調整しなくてはならないことを認識している。ADBは、それぞれの国に焦点を当てたアプローチを強化し、革新的な技術を活用し、さまざまな支援分野とテーマにわたる専門知識を結集させ、かつ公共部門と民間部門の業務を融合した総合的な支援を提供する。

ADBは、今後もアジア・太平洋地域の最貧国ならびに最も厳しい状況にある国を優先して支援していく。また、不安定で紛争の影響を受けた地域、小島嶼開発途上国、低所得・低位中所得国、高位中所得国など、さまざまなグループの国の多様なニーズに応えるべく、他とは異なる対応を適用する。このような国の中でも、ADBは、より開発の遅れている地域や、貧困と脆弱性の高い地区への支援を優先する。

インフラ投資、中でも環境に配慮し、持続可能で、あらゆる人が暮らしやすい社会の開発への投資は、今後も重要な優先分野である。同時に、教育、医療および社会保障などの社会分野における業務も拡張していく予定である。

ADBは、次の7つの優先事項に重点を置いて支援を行っていく。(1)アジア・太平洋地域でいまだ続く貧困と拡大する不平等への対処、 (2)ジェンダーの平等の促進、 (3)気候変動への対応強化、気候変動・災害に強い社会の構築、環境の維持、(4)暮らしやすい都市の構築、 (5)農村開発と食糧安全保障の促進、(6)ガバナンスの強化、(7)地域協力と統合の推進。

2030年までに、ADBが合意した業務案件数の少なくとも75% (3年間移動平均で、ソブリンおよびノンソブリン業務を含む)について、ジェンダーの平等の促進を支援の内容に含めること、同様に、75% (3年間移動平均で、ソブリンおよびノンソブリン業務を含む)について、気候変動の緩和と適応を支援することを目指す。2019年から2030年までで、ADB独自の財源を使った気候対策のための融資額は、800億ドルに達することが見込まれている。2019年中盤に導入予定の新たな成果評価方法には、これら以外の優先分野に対する目標値も織り込まれる予定である。

「ストラテジー2030」の7つの優先項目を推進するため、ADBは民間部門業務を拡張かつ多角化し、2024年までにその案件数を全案件数の3分の1にまで増やすとしている。中尾総裁は、「民間部門業務を、不安定で紛争の影響を受けた地域や小島嶼開発途上国などの未開拓市場に拡張する。また、官民連携もさらに強化していく」と述べた。

ADBの民間部門業務では、環境・社会・ガバナンスの水準の改善を支援し、市場から適切な条件で資金調達をすることが困難な案件に資金を提供し、プロジェクト設計や開発効果を改善し、起こりえるリスクを軽減する。また、革新的なインフラに加え、アグリビジネスへの支援を強化し、民間ベンチャー企業による医療や教育などの社会セクターも支援していく。

ADBは、引き続き安定した資金提供者と資金調達の触媒としての役割を担う。中尾総裁は、「ADB独自の資金に加えて動員できる追加財源の量と質は、当行にとっての成功の重要な尺度である」と述べた。ADBは、2030年までに長期協調融資を大幅に拡大し、民間部門業務において、融資1ドルあたり、2.5ドルの長期協調融資を獲得することを目指す。

最も適した知識成果物・サービスを開発するため、開発途上加盟国とより密接に協力していく。ADBは、各経済分野の調査研究に積極的に関わり、質の高い政策的助言を提供し、これらの政府機関の能力強化と、知識提携の拡大を進める。

ADBは今ある技術を活用してビジネスプロセスの飛躍的な近代化を追求することにより、より効果的、かつ迅速な業務の遂行を目指す。また、商品や業務手法を拡張し、人材を強化し、さらにデジタル化を加速させる予定。ジェンダーバランスの改善と配慮ある職場環境の促進など、職場の多様化にも取り組む。そして「One ADB」の概念を導入し、組織全体の知識と専門性を結集して業務を行っていく。さらに、プロジェクトの組成、実施およびモニタリングについては、市民社会組織とも協力していく。

「ストラテジー2030」の作成にあたっては、ADB加盟国、著名な開発分野の専門家、市民社会組織など、幅広い重要な関係者との綿密な協議がもたれた。

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