フィリピン、マニラ(2022年9月21日)—アジア開発銀行(ADB)は、中央銀行による金融引き締めの強化やロシアによるウクライナ侵攻の長期化の影響、また、中国における新型コロナウイルス対策のためのたび重なるロックダウン措置などの課題が山積する中、アジア・太平洋地域の開発途上国の経済見通しを再び下方修正した。
本日発表された『アジア経済見通し2022年改訂版』(Asian Development Outlook (ADO) 2022 Update)によると、同地域の今年の経済成長予測は、4月時点の見通しである5.2%から4.3%となった。来年の成長予測は同じく5.3%から4.9%に引き下げられた一方、同地域のインフレ見通しは上方修正した。中国を除くその他のアジア開発途上国全体では、2022年、2023年ともに5.3%の成長が予測されている。
ワクチン接種の普及や新型コロナウィルス感染症による致死率の低下などにより、域内各国においてパンデミックに対する行動制限措置の緩和が継続される中、国内個人消費と投資が成長を牽引している。しかし、ウクライナ侵攻の長期化は、世界的な不確実性を高めるとともに、供給面の混乱に拍車をかけ、エネルギー・食料市場を不安定化させた。米連邦準備制度理事会や欧州中央銀行による、より積極的な金融引き締めは、世界的な需要を著しく押し下げ、金融市場を動揺させている。一方、新型コロナウィルス感染症の散発的なアウトブレイクと新たなロックダウン措置は、この地域最大の経済国である中国の成長を鈍化させた。
アルバート・パークADBチーフエコノミストは、「アジアの開発途上国は、回復傾向が続いているとはいえ、依然として大きなリスクを抱えている」とした上で、「世界経済の大幅な失速によって、この地域の輸出需要は著しく減退してしまう。先進国の金融引き締めが予想以上に強まると、金融不安にもつながりかねない。また、中国経済は、度重なるロックダウンや不動産セクターの脆弱性という課題に直面している。アジア開発途上国の政府は、これらのリスクに引き続き警戒し、成長を阻害することなくインフレ抑制のために必要な措置を講じる必要がある」と述べた。
世界の主要先進国経済の成長見通しは2022年1.9%、2023年1.0%と予測され、4月時点の見通しより鈍化する。物価の高騰により、米国やユーロ圏では積極的な金融引き締め政策が推し進められ、サプライチェーンの混乱の影響やウクライナ侵攻による不確実性とも相まって、引き続きこれらの国の需要を減退させた。
ADBはアジア開発途上国の今年のインフレ見通しを、前回予測の3.7%から4.5%に上方修正した。来年のインフレ見通しは3.1%から4.0%に上方修正されている。この地域全体のインフレ率は世界の他地域に比べて低い水準にとどまっているものの、供給面の混乱は、引き続き食料と燃料の価格を押し上げている。
今年の中国の成長見通しは、4月の5.0%から3.3%に下方修正された。その他のアジア開発途上国全体としては、この30年余りの間で、初めて中国を上回る成長を遂げる見通しである。インドの成長見通しは、予想を上回るインフレと金融引き締めにより、7.5%から7.0%に引き下げられた。
インドネシアとフィリピンの堅調な内需が寄与し、東南アジアの今年の成長予測は5.1%と改善されたものの、世界的な需要の低迷を踏まえ、来年の見通しは下方修正された。2022年の成長見通しは、中央アジア・コーカサス地域でも改善しており、今年は3.9%の成長が見込まれている。また、太平洋諸国では、観光産業がパンデミックから回復しつつある中、4.7%の成長が見込まれている。
『アジア経済見通し2022年改訂版』には、デジタル時代におけるアントレプレナーシップ(Entrepreneurship in the Digital Age)をテーマとする章が含まれている。この章では、デジタル分野でのアントレプレナーシップがいかにさらなる成長とイノベーションをリードすることができるか、また、この地域の各国政府が、いかにデジタル分野の起業家の活躍推進に向けた環境を作っていくことができるかについて考察している。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。