フィリピン、マニラ(2023年3月30日)―アジア開発銀行(ADB)が本日発表した報告書によると、ASEAN経済は、将来のパンデミック、地政学的不安定性、気候変動などの新たな課題に対する強靭性を高めるために、グローバル・バリューチェーンにおける地位を強化する必要がある。
この報告書、『ASEANとグローバル・バリューチェーン:強靭性と持続可能性の確保』(ASEAN and Global Value Chains:Locking in Resilience and Sustainability)は、各国が強靭性を高め、グリーンで持続可能な開発を促進しようとしている東南アジアにおいて、グローバル・バリューチェーン(商品の企画から消費者に届くまでの一連の生産プロセスに分かれた、複数の国や地域にまたがるネットワーク)が直面している課題と機会について調査したものである。同報告書は、インドネシアのバリで開催された東南アジア開発シンポジウム(SEADS)に合わせて発表された。
浅川雅嗣ADB総裁は、「ASEAN諸国が、引き続き新型コロナウイルス感染症から回復を遂げる中、経済の復興をより環境に配慮された持続可能な形で進めるようにしなければならない」とした上で、「この報告書は、グローバル・バリューチェーンの脱炭素化に向けて、政府や企業が採ることのできる具体的な措置を提案しており、再生可能エネルギーや効率改善への投資、気候変動に対応した商品の取引コストを削減するためのインセンティブ、デジタル化の加速は、ASEANやそれ以外の地域における、より環境に配慮した持続可能なバリューチェーンの実現に貢献する」と述べた。
同報告書によると、グローバル・バリューチェーンは、新型コロナウイルス感染症の影響に対して予想以上に強靭であることが明らかにされた。ただし、企業は不可欠な原材料や商品を少数のサプライヤーに依存していることから、混乱に対応するために調整を余儀なくされた。そのため、同地域は、貿易、投資、地域統合を拡大させながら、グローバル・バリューチェーンのセグメントにおいて強靭性を高める必要がある。
さらに報告書は、新たな技術によってグローバルバリューチェーンが進化し続ける中、低技能労働者を雇用することによる競争優位性が減少していることを指摘している。そのためこの地域では、新たな技術や技能を備える人材を育成することが極めて重要である。
また、ASEAN経済も環境に配慮した「グリーン化」が必要である。最も望ましいのは、脱炭素化を促進する政策により、ASEANのグローバルバリューチェーンも強化されるシナリオである。ASEAN経済は、貿易のデジタル化を加速し、気候変動に配慮した貿易、グリーンな交通インフラ、そしてカーボンプライシングを推進する必要がある。
最後に同報告書では、ASEAN経済は、高いリスクがあると指摘されている。最近の世界的なショックや地政学的な貿易保護主義によって、ASEANや他の地域の成長が妨げられる可能性がある。また、同報告書では、アジアの貿易協力を深化させ、他の地域にも拡大することにより得られる大きな政策効果と利益について考察している。
SEADSは、ADBによる年次のフラッグシップ・ナレッジ・イベントであり、政府、産業、学術界、その他のセクターからのリーダーが集まり、気候変動や技術開発などの重要な開発課題について、革新的な解決策を議論する。今年のイベントは、「ネット・ゼロのASEANを思い描く」(Imagining a Net-Zero ASEAN)と題し、経済的繁栄を確保しつつ、同地域がいかにしてネット・ゼロに移行し、気候に対する強靭性を実現できるかに焦点が当てられる。過去3回のSEADSは、新型コロナウイルスのパンデミックのためオンラインで開催されたが、参加者は1万人を超え、登壇した講演者は多岐にわたった。SEADS 2023では、G20サミットの優先事項や成果を補強し、2023年のASEAN財務大臣会議での対話に貢献することを目指す。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。