マニラ (2019年7月19日) - アジア開発銀行(ADB)は、アジア開発途上国経済について、世界的な貿易摩擦の影響は内需に支えられて限定的であり、継続的に堅調な成長が見込まれるものの、2019年から2020年にかけて減速すると発表した。
ADBは、今年4月発表の『アジア経済見通し2019』(Asian Development Outlook 2019)を補足する報告書の中で、2019年と2020年のアジアの開発途上国の成長率を据え置き、それぞれ5.7%と5.6%とした。2018年の成長率5.9%と比べて僅かな減速となる。また、香港、韓国、シンガポール、台湾などの新興工業経済国を除いた、この地域の2019年成長率は、6.2%から6.1%へと変更されたが、2020年は据え置きとなった。
緊張が深刻化する中国と米国の貿易問題は、6月下旬の段階で、両国が貿易交渉を再開する可能性が出てきたものの、この問題は経済見通しにおいて、引き続き最大の下方リスクである。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「仮に貿易摩擦が続いたとしても、アジア・太平洋地域は堅調な成長が見込まれるが、穏やかものとなるだろう。世界の二大経済国の間で合意に至らなければ、先行きの不透明さにより、今後の経済成長見通しが左右される」と述べている。
2019年の東アジアの成長見通しは、予測より減速している韓国経済により、5.6%に下方修正された。一方、この地域の2020年の成長見通しは4月の予測と変らず5.5%。また、この地域最大経済国である中国の成長見通しも変らず、2019年は6.3%、2020年は6.1%となった。これは政策支援により、国内外の需要の鈍化が相殺されたためである。
南アジアでは、4月の予測より減速の見込みだが、2019年は6.6%、2020年は6.7%と堅調な成長が予測される。インドの成長は、2018年度の生産高が不足したことで下方修正され、2019年が7.0%、2020年7.2%となった。
東南アジアでは、貿易の停滞とエレクトロニクス分野の不振により、経済見通しもわずかに下方修正され、2019年が4.8%、2020年が4.9%となった。中央アジアでは、2019年の見通しが上方修正され、4.3%となったが、これは、カザフスタンの経済成長見通しに改善が見込まれることによる。2020年の中央アジアの成長見通しは、4月の発表と変らず、4.2%と予測される。太平洋地域については、サイクロン・ギタとこの地域最大の経済国であるパプアニューギニアで起きた地震の影響から引き続き回復しており、当初の発表と変らず2019年が3.5%、2020年が3.2%と予測される。
主要先進国の経済は若干の修正となり、2019年は、米国が上方修正されて2.6%、EU地域は下方修正されて1.3%、日本は変らず2019年が0.8%で、2020年が0.6%の予測である。
アジア開発途上国のインフレ率は、2019年、2020年ともに2.5%から2.6%に上昇修正された。原油価格の上昇と、一部の国において豚コレラの発生が続き、豚肉の価格が中国で上昇する見込みであることなど、さまざまな国内の要因によるものである。