日本、東京(2021年8月30日) ― アジア開発銀行(ADB)が昨年1月15日に発表した、『アジア開発史-政策・市場・技術発展の50年を振り返る-(Asia’s Journey to Prosperity: Policy, Market, and Technology over 50 Years)』の日本語版が、本日、勁草書房から刊行された。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「アジア・太平洋地域における驚異的な経済発展の成功要因が何であったのかについては、既に数多くの書籍・論文が出版されている」とした上で、「中央アジアと太平洋島嶼国を含む対象地域の広さと歴史的議論を含む対象期間の長さ、そしてジェンダー、気候変動、海洋汚染、人口高齢化、人工知能などアジアや世界における新しい潮流にも目を向けており、ADBスタッフが執筆に直接関わったことで、類書にはない包括性、革新性、政策的含意の深さを持っていると自負している」と述べている。
世界銀行が1993年に刊行した、『東アジアの奇跡』報告書は、日本や新興工業経済地域(韓国、シンガポール、香港、台湾)、いくつかの東南アジア諸国の高成長を論じたが、本書は46のADBの開発途上加盟国・地域のすべてをカバーしている。1993年以降の最も重要な変化は中国の勃興だが、インドシナ諸国、中央アジア諸国における中央計画経済から市場志向改革への転換も興味深いテーマだ。本書の執筆においては、各章の記述をできるだけ読みやすく、興味深いものにすることに留意され、多様なエピソード、データ、各国の事例が盛り込まれている。
本書は、アジアの経済発展の道筋に他の地域と異なるような特別な発展モデル、つまり「アジア・コンセンサス」のようなものがあったわけではないと指摘している。つまり、アジアの戦後の経済的成功は、基本的に市場メカニズムを活用した政策によりもたらされたが、政策を選択するにあたっての政府のプラグマティズム、自国や他国の成功や失敗の経験から学ぶ能力、改革を導入する際の決断力にも助けられた。
本書は以下の15の章で構成されている。第1章:アジア開発の50年:概観、第2章:市場・国家と制度の役割、第3章:構造転換のダイナミクス、第4章:農業の近代化と農村の開発、第5章:成長の原動力としての技術的進歩、第6章:教育・保健と人口動態、第7章:投資・貯蓄・金融、第8章:インフラ開発、第9章:貿易・外国直接投資・経済開放、第10章:マクロ経済安定化の取り組み、第11章:貧困削減と所得分配、第12章:ジェンダーと開発、第13章:環境の持続可能性と気候変動、第14章:多国間・二国間開発資金の貢献、第15章:アジアにおける地域協力・統合の強化。第1章は、本書の要約の役割を果たしている。
なお、昨年来、新型コロナウイルスのパンデミックが続く中、日本語版の出版に先立ち、アジアのみならず世界におけるコロナ禍からの復興と残された開発上の課題解決に資することを目的として、「アジアにおける災害レジリエンス」という章が新たに書き下ろされた。この補章の英語版はADBのウェブサイトで、そしてその日本語版は、勁草書房のウェブサイトで閲覧することができる。
本書の原文は、中尾武彦前ADB総裁と経済調査・地域協力局の幹部が中心となり、多様なスタッフからなるADBのチームが3年の歳月をかけて編纂した。日本語版の作成においては、ADBの現役日本人職員がそれぞれの専門分野の知見に基づきながら分担して邦訳を精査し、澤田氏が邦訳チーム全体を統括した。
2021 年 9月27日に、澤田氏のモデレーションにより、大庭三枝神奈川大学教授、後藤健太関西大学教授、伊藤亜聖東京大学准教授、中尾武彦みずほリサーチ&テクノロジーズ理事長を招いて、この日本語版の出版を記念したオンラインでのトーク・セッションが予定されている。この公開トーク・セッションの案内と事前登録については、9月6日にADB駐日代表事務所のウェブサイトおよびフェイスブックで告知させていただく予定である。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。