【フィリピン・マニラ、2016年7月18日】アジア開発銀行(ADB)は、去る3月に公表した『アジア経済見通し2016(ADO 2016)』の補足版を本日公表し、2016年および2017年のアジア・太平洋地域の途上国経済は、南アジア、東アジア、および東南アジアの堅調な成長が、軟調な米国経済や英国のEU離脱への賛成票が目先の市場にもたらす影響を相殺するため、底堅いとした。
報告書でADBは、アジア途上国の2016年の経済成長見通しを5.6%とし、前回予測の5.7%から引き下げた。2017年の経済成長見通しは5.7%で変わらないとしている。
ADBのシャンジン・ウェイ(Shang-Jin Wei)チーフ・エコノミストは、「英国のEU離脱への賛成票は、アジア途上国の通貨市場と株式市場に影響を及ぼしたものの、実体経済への影響は短期的には小さいだろう」としたうえで、「主要先進国の緩慢な成長見通しを考えると、政策立案者は域内の好調な成長を保つためにも、外的ショックを警戒し、その対応に備え続ける必要がある」とした。
報告書は、2016年および2017年の経済成長は南アジア、とりわけインドによるものとしている。インド経済は順調に拡大しており、また、中国は当初の成長見通しを達成すると見られている。
香港および韓国の経済が低迷しているにもかかわらず、2016年および2017年における東アジアの経済成長見通しはそれぞれ5.7%と5.6%を維持した。世界第2位の経済規模をもつ中国は、2016年および2017年にはそれぞれ6.5%と6.3%の成長見通しを達成する見込みである。そのため、中国政府は、金融・財政刺激策を引き続き実行する必要がある。
一方、南アジアは、インド経済に牽引されて急成長が期待されている地域である。インド経済は、旺盛な消費支出や農村経済の上昇に支えられ、世界経済の逆風をかわし、ADBが今年3月に公表したインドの2016年度(2017年3月まで)の経済成長見通しである7.4%は達成される見込みである。報告書は、2016年および2017年のパキスタンの経済成長は、エネルギー供給の更なる改善、インフラ投資の拡大、セキュリティー環境の改善を受けて押し上げられるとし、また、バングラデシュの経済は、衣料産業に支えられて引き続き好調としている。
東南アジアでは、民間消費に支えられて殆どの途上国で2016年上半期の経済は堅調で、その成長見通しは2016年の4.5%、2017年の4.8%を維持した。例外はベトナムで、深刻化する干ばつの影響を受けて農業部門が縮小し、同国経済は圧迫された。
中央アジアについては、一次産品価格の低迷の継続やロシアの景気後退により、その経済成長見通しは、2016年では2.1%から1.7%に、2017年では2.8%から2.7%に引き下げられた。炭化水素の輸出収入の落ち込みが、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの財政再建努力に影響を及ぼし、また、主にロシアからの送金の減少が、同地域の国内消費を弱めている。
太平洋地域では、サイクロン・ウィンストンの被害によりフィジー経済が弱まり、経済成長率は2015年の7.1%から2016年の3.9%に落ち込む見通しである。しかし明るい兆しも見られ、予想以上の観光収入がクック諸島とサモア経済を支え、サイクロン災害後の復興事業や主要インフラ・プロジェクトの実施がバヌアツ経済を押し上げている。
報告書は、アジア途上国のインフレ率を2016年は2.8%、2017年は3.0%とし、前回予測から各年0.3%ポイントずつ引き上げた。この上昇は主に石油価格や食品価格の回復によるものである。石油価格は年初の最低水準から回復し、食品価格は2016年6月に前年からほぼ9%上昇し、5カ月連続で物価指数は上昇した。