日本、東京(2019年9月25日)- アジア開発銀行(ADB)は本日、主要経済報告書である「アジア経済見通し2019年改訂版(Asian Development Outlook 2019 Update: ADOU 2019)」を発表。その報告書によると、アジアの開発途上国では引き続き力強い経済成長が続いているものの、貿易と投資の減速によりその見通しに陰り見られ、アジア・太平洋地域経済のリスクが高まっている。

この報告書では、45のADBの開発途上加盟国・地域の2019年の経済成長率を5.4%、2020年にはわずかに上昇し、5.5%となる見込みとしている。見通しが下方修正された背景には、米中貿易摩擦の悪化などによる世界貿易の先行き不透明感の高まりや、先進国および中国、インド、韓国、タイなどアジアの主要経済国の減速がある。

香港、韓国、シンガポール、台湾といった新興工業国を除いたアジアの開発途上国では、2019年、2020年共に6.0%の成長が見込まれている。

澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「世界の主要な経済国は、我々の現在の見通しよりも伸び悩む可能性がある一方で、米中貿易摩擦は2020年も十分に続く可能性がある。アジアにおける貿易の減速や投資の減少は大きな懸念である」とし、「こうしたすべての問題について、政策当局は注視する必要がある」と述べた。

アジア・太平洋地域の開発途上国の成長見通しは、地域によって様々である。エレクトロニクス分野の急速な不振とあいまって、世界貿易の減速が、中国、そして東アジアや東南アジアのより開放的な経済国の成長見通しを押し下げる結果となった。報告書では、中国の成長率を2019年は6.2%、2020年は6.0%と予測し、東アジア全体としては、2019年は5.5%、2020年は5.4%と予測。東南アジアについては、2019年は4.5%、2020年は4.7%と予測している。

インドについては、今年4月から5月にかけて実施された総選挙前に投資が低調だったことや金融引き締めの影響により、2019年は6.5%の成長、2020年は7.2%への上昇が見込まれる。南アジア全体の経済成長率は、2019年は6.2%、2020年は6.7%の予測となっている。

公共支出がカザフスタンとウズベキスタンの経済成長を後押しし、中央アジア全体の経済成長見通しは2019年が4.4%、2020年が4.3%となった。一方、パプアニューギニアの震災後の回復が太平洋地域の経済成長を押し上げ、太平洋地域の成長率は2019年が4.2%、2020年はやや減速するものの2.6%と予測される。

また、この報告書では、米中貿易摩擦の悪化と拡大によりアジア・太平洋地域のサプライチェーンが再構築される可能性について指摘している。すでに中国からベトナムやバングラデシュといった他の開発途上国へ貿易の仕向け先の変化が見られており、外国直接投資にも同様の変化が起こっている。

2008年から2009年の世界金融危機以来、アジアの開発途上国において公的・民間債務は増えており、債務の対GDP比率は過去20年間に3分の2も拡大した。この報告書では、急激な債務の増加は財政の安定にとって大きなリスクとなるものであり、政策当局が引き続き警戒すべきであることを指摘している。

中国において、アフリカ豚コレラの発生により食肉の価格が上昇するなど、アジア・太平洋地域では食料価格の上昇を主因として、インフレ率は上昇した。報告書では、2019年および2020年の同地域のインフレ率は共に2.7%になると予測している。

ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBが2018年に新たに契約署名した融資およびグラントの総額は216億ドルにのぼる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。

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