【中国・香港、2018年4月11日】 アジア開発銀行(ADB)が本日発表した報告書によると、技術の進歩により、過去25年間で工業とサービス分野において年間3千万人もの雇用が創出され、生産性と賃金が向上し、そして貧困が削減された。その結果、20億人規模のアジア労働市場は変革したという。

ADBは、その重要な経済刊行物である「アジア経済見通し2018年版(Asian Development Outlook (ADO) 2018 )」の中で、特別テーマとして、「いかに技術が雇用に影響を与えるか」について取り上げ、自動化により失われる職業がある一方で、プラスの効果はそれを補って余りあるものである、と指摘している。

「ADBの最新の調査によれば、アジアの国々では新たな技術が職場に導入されることで、生産性が向上し、生産コストが下がり、かつ需要が高まるなど、総じてうまいくと考えられる」と澤田康幸ADBチーフエコノミストは述べている。また、「誰もが新たな技術から恩恵を受けられるように、政策決定者は、教育改革を進め、生涯学習の推進、労働市場の柔軟性の維持、社会保障制度の強化、そして所得の不平等の是正に努める必要がある」とした。

ロボット工学や人工知能といった分野の進歩を前にしても、アジアにおける雇用については、将来に明るい見通しを持つだけの十分な根拠がある。新たな技術は、1つの職務について、そのすべての業務ではなく、ほんの一部を自動化しているに過ぎない場合が多く、さらにそうした業務の自動化というのは、技術的にも経済的にも利用可能な場合のみ導入されるからである。

最も重要なこととして、需要の拡大による雇用の増加は、それ自体が新たな技術のもたらす生産性向上の結果であり、それが自動化の推進により起こる雇用の減少を相殺し、新たな専門職を創出する。アジアの途上国12カ国における、2005年から2015年の間の雇用の変化に関するADBの分析では、技術の進歩に伴う国内需要の拡大が、同様に起こりうる雇用の喪失の影響を補って余りある雇用効果をもたらすということが確認された。さらに、幅広いデータ分析の結果、多くの新たな職種が情報通信技術分野で産まれ、新たな就業機会が金融や保険、不動産業とともに介護や教育の分野でも生じていることが判明した。

この調査報告書では、ロボット工学や人工知能といった分野での進歩が労働者に課題をもたらしていることが指摘されている。反復・単純作業職や、転職しやすくなるなるための教育や訓練を受けていない労働者は、なかなか賃金が上がらない状況に直面する可能性がある。これにより、アジア地域における所得格差が広がることが予測される。まさしくこの調査報告書にあるように、高い知識や人との交流を要する職業、情報通信技術を要する職業、すなわち、より高学歴層が高賃金を得やすい職業は、この10年間で、雇用数全体に比べて年間2.6%高い伸びで増加し、こうした

職業の平均実質賃金は他の単純作業職や肉体労働職より早く増加した。

新たな技術がもたらす恩恵が、全ての労働者や社会で広く配分されるためには、各国の政策決定者による将来を見据えた取組みが必要である。各国政府は、労働者が技術進歩に取り残されないよう対応していく必要がある。それにより、労働者は新たな技術導入がもたらす負の側面から守られ、新たな機会を有効に活用できるようになる。そのためには、技能の向上や労働規制、社会保障、そして所得再分配を調整していくことが必要である。

新たな技術は、こうした多くの分野で解決策を提供してくれる。例えば、適応学習技術は、生徒一人ひとりに対応するように設定されたコンピューターのアルゴリズムを活用した教育方法であるが、これは学校での学習成果を高めた。各国政府はこのような新技術の活用を進めるべきである。同様に、生体認証技術が発展すれば、コストが削減され、複雑な失業保険制度実施にかかる困難も克服され、職業紹介サービス情報の追跡・記録が可能となり、社会保障制度をより機能させることができる。加えて、各国政府は、新たな技術の開発が、人々の役に立ち、また、例えば個人情報の保護など、権利やプライバシーを守るやり方で進められるようにしなければならない。

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