フィリピン・マニラ(2022年3月16日)—アジア開発銀行(ADB)が東南アジア開発シンポジウム(SEADS)で発表した新しい報告書によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、2021年に東南アジアでは470万人が極度の貧困に追い込まれ、930万人が職を失った。
ADBの報告書「パンデミックから復興する東南アジア」(Southeast Asia Rising from the Pandemic)によると、オミクロン株の波により、同地域の経済成長率は2022年に0.8パーセントポイント押し下げられる可能性がある。2022年の同地域の経済産出高は、新型コロナウイルス感染症が発生していない場合と比べて、依然として10%以上下回ると予想される。最も影響を受けるのは、未熟練労働者、小売りや非公式経済の労働者、そしてデジタル化の遅れている零細事業の労働者である。
浅川雅嗣ADB総裁は、「東南アジアでは、パンデミックにより失業者が増え、不平等が悪化し、貧困水準が高くなったが、これらは特に女性や若年労働者、そして高齢者の間で深刻である」とした上で、「ADBは、国内の保健医療システムの再構築と改善、および企業競争力の強化を目的とした規制合理化に取り組む政策当局と引き続き協力していく。東南アジア各国政府がスマートインフラ、グリーンインフラに投資し、経済成長を取り戻すために技術革新の導入を支援する」と述べた。
同報告書によると、パンデミックの発生から2年が経過し、幅広く技術導入を推進している国、商品輸出が堅調な国、あるいは天然資源が豊富な国では、高い経済成長が見込まれる。また、同報告書では地域全体の経済回復に言及しており、大部分の国では商業施設や行楽地への客足が2022年2月16日までの2年間に161%伸びたという。しかし、東南アジア地域は、新型コロナウイルスの変異株の出現や世界的な利上げ、サプライチェーンの混乱、商品価格の上昇やインフレなどの世界的な逆風に直面している。
2022年2月21日現在、東南アジア地域のワクチン接種率(2回目まで接種)が59%である中、同報告書では、東南アジア各国政府に、医療提供体制や疾病サーベイランスの改善、また将来のパンデミック対応することができるように、さらに多くの支援のためのリソースを保健医療システムに配分するよう要請している。保健医療への投資により、労働参加が増加し、労働生産性が高まることで、経済成長を後押しすることが可能である。具体的には、東南アジアの保健医療投資が、2022年の国内総生産(GDP)の約5.0%(2021年は3.0%)に達すれば、経済成長率は1.5パーセントポイント上昇する可能性がある。
同報告書は、各国が競争力と生産性を高めるための構造改革に取り組むことを推奨している。それには、業務手続きの簡素化や貿易障壁の削減、零細企業における新たなテクノロジー導入の推進が含まれる。また、労働者が労働市場混乱による幅広い影響に対応し、異業種間移動を手助けするための技能教育も含まれる。政府は財政赤字や債務を減らすべく財政規律を維持し、税務管理を近代化することで、効率性を高め、課税基盤を拡大しなければならない。
東南アジアにおけるADBの年次の主要なナレッジ・イベントである東南アジア開発シンポジウム(SEADS)では、政府や産業界、学界、およびその他の分野のリーダーが集まり、気候変動や技術開発などの重要な開発課題に対する革新的なソリューションを討議する。今年のイベント「東南アジアの復興のための持続可能なソリューション」(Sustainable Solutions for Southeast Asia's Recovery)では、同地域がサプライチェーンのボトルネックに対処し、観光を復活させ、デジタル変革を進めることで、新型コロナウイルス感染症のパンデミックからの復興をどのように推進できるかに焦点が当てられる。今年の2日間のバーチャルイベントには約5,000人の参加が見込まれている。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。