フィリピン、マニラ(2021年9月15日)—アジア開発銀行(ADB)の 「アジア債券モニター」(Asia Bond Monitor)の最新号によると、緩和的な政策スタンスにより、金融情勢は引き続き安定しているものの、ここ数カ月間の新型コロナウイルスの流行再燃で、東アジア新興国の投資家心理は冷え込んでいる。
中国、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムでは、6月15日から8月27日までの短期(2年)および長期(10年)国債利回りは低下した。新型コロナウイルスの陽性者が増加する中、経済回復の先行き不透明感により、多くの市場で長期債利回りが低下した。東アジアのほとんどの新興市場では、株価指数や通貨が下落した一方で、海外の証券投資は国外に流出した。
東アジア新興国の現地通貨建て債券市場は、度重なる国債の発行増加に伴い、6月末時点で21兆1千億ドルにまで成長した。各国政府は、パンデミックの収束と経済回復を後押しするため、現地通貨建て債券市場の活用に努めた。現地通貨建て債券発行残高は前四半期の2.2%増から2.9%増に拡大した。国債は、前四半期の2.1%増から3.3%増の合計13兆1千億ドルに増加した。
ジョセフ・ズベグリッチJr. ADBチーフ・エコノミスト代理は、「新型コロナ変異株の出現と、一部地域での更なる行動制限措置が、持続的な復興への初期の勢いを鈍化させている」とした上で、「東アジア新興国の金融情勢は、引き続き先行き不透明な状況に対処する中にあっても、依然として安定している。一部の中央銀行は、債券市場の流動性を改善し、民間投資家の信頼を高めるために、小規模な資産購入プログラムを活用した。長期債務は、現地通貨建ておよび外貨建て債務構造のより多くを占めており、域内のサステナビリティ債券市場は拡大している」と述べた。
ここで東アジア新興国は、中国、香港、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムを指す。
東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国のサステナビリティ債券市場は前四半期の0.6%増から30.4%増へと急成長し、6月末時点で合計236億ドルに達した。ASEAN地域に中国、香港、日本、韓国を加えたサステナビリティ債券は合計3,452億ドルとなり、世界のサステナビリティ債券市場の19%に相当する。同地域における2021年上半期のグリーンおよびサステナビリティ債券の発行額は、2020年通年の発行額を上回った。
新型コロナウイルスの流行再燃や域内の経済回復への影響が、依然として市場にとってのリスク要因となっている。米国の力強い回復とあいまって、更なる資本流出、そして対外債務の負担を増加させる現地通貨の下落を助長する可能性がある。潜在的に、米国債利回りの上昇は、東アジア新興国地域に波及し、現地通貨建ての資金調達コストが上昇する可能性がある。
「アジア債券モニター」の最新号では、ワクチン接種の進展や経済成長率にばらつきが見られる状況下における、力強くも多様な世界経済の回復見通し、東アジア新興国の中央銀行による資産購入プログラム、そして域内における対外債務の積み上がりについて考察している。また、本レポートではこの他に、投資で生み出すバリューチェーンに社会的リスクを取り入れることや、保健・医療、安全な飲み水、食料安全保障、ジェンダー平等に関連するプロジェクトを支援するための社会貢献債(ソーシャル・ボンド)の活用を拡大する重要性について焦点を当てている。
ADB は、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。