フィリピン、マニラ (2021年8月24日)—アジア開発銀行(ADB)が発表した最新の報告書によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが、持続可能な開発目標(SDGs)の重要なターゲットに向けたアジア・太平洋地域の進捗を脅かしている。
本日発表された2021年度版「アジア・太平洋地域主要指標」(Key Indicators for Asia and the Pacific 2021)報告書によると、新型コロナウイルス感染症が発生しなかった場合と比較して、パンデミックにより極度の貧困に陥った人々が、アジアの開発途上国で昨年7,500万人~8,000万人増加したと推定される1。パンデミックによって不平等が拡大したと仮定すると、極度の貧困(1日あたり1.90ドル未満で生活する層と定義される) の相対的な増加は、さらに大きくなる可能性がある。同地域全体で、以前は不均衡ながらも著しい成果を遂げた、飢餓、保健、教育などの分野でも進捗が芳しくない。
同報告書は、49の域内加盟国・地域の経済、金融、社会、環境に関する統計を包括的に提供している。同報告書によると、2017年時点で、アジアの開発途上国の約2億300万人(人口の5.2%)が極度の貧困の中にあった。新型コロナウイルス感染症が発生していなければ、この数字は2020年に2.6%まで減少したものと推定される。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「アジア・太平洋地域は目覚ましい発展を遂げてきたが、新型コロナウイルスによって、同地域の持続可能かつインクルーシブな開発を弱体化させる可能性がある、社会的および経済的な分断線が明らかにされた」とした上で、「2030年の持続可能な開発目標を達成するために、政策決定者は、特に貧困層や脆弱層など、復興により誰も置き去りにされることがないよう、良質かつタイムリーなデータを行動指針として活用する必要がある」と述べた。
アジア・太平洋地域の経済は近年、力強いペースで成長しており、2019年には世界の国内総生産(GDP)(現在の米ドル建て)の35%まで占めるに至った。しかし、国内投資の低迷および世界全体の貿易や経済活動の減速が、このモメンタムに影響を及ぼし始めたその時期に、新型コロナウイルス感染拡大が大きな打撃をもたらした。アジア・太平洋地域経済のうち、昨年GDPが成長したのは約4分の1に過ぎない。同地域は、移動制限により労働時間の約8%を失い、インフォーマル・セクターの貧困世帯および労働者に深刻な影響を与えた。
同報告書には、現代の暮らしにおけるデジタル経済およびそのますます重要になる役割を測定する実践的なフレームワークを紹介する特別付録が含まれている。これは、新型コロナウイルスのパンデミックにおいて特に顕著となった。
同報告書では、以下の情報も提供している。
- アジア・太平洋地域におけるSDGs指標に関する現状
- 8つのテーマ(人、経済と生産高、通貨・金融・物価水準、グローバル化、運輸と通信、エネルギーと電力、環境、行政とガバナンス)に跨る指標を含む、同地域の動向と図表
- グローバル・バリューチェーンとそのショックに対する緩衝ならびに増幅機能としての役割に関するパンデミックの影響の分析
- 49の域内加盟国・地域の最新の国・地域別統計
同報告書の発表に合わせて、ADBはオンラインデータベースを更新した。このデータベースは、使い勝手が良く、利用しやすい形で2000年以降の統計指標へのアクセスを提供している。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。
1 この推定は、2021年度版「アジア・太平洋地域主要指標」報告書における35の開発途上加盟国・地域のデータを参照している。