フィリピン、マニラ(2020年9月15日) - アジア開発銀行(ADB)が本日発表した報告書によると、アジアの開発途上国経済は、今年約60年ぶりにマイナス成長となるものの、この地域が新型コロナウイルスのパンデミックによる経済の悪化からの回復の兆しが見えることから、来年には回復が見込まれる。

「アジア経済見通し2020年改訂版」(Asian Development Outlook 2020 Update: ADOU 2020)は、今年のアジア開発途上国の国内総生産(GDP)成長率をマイナス0.7%と予測しており、1960年代初頭以降初めてマイナス成長を記録することとなる。成長率は2021年には6.8%まで回復するが、これは一つには、低迷する2020年との比較で測定されるためである。またこれは、来年の生産高の水準が、新型コロナウイルス流行前の予測値を依然として下回ることを意味し、「V字」回復ではなく「L字」の回復となることを示している。アジア・太平洋地域経済の約4分の3は、2020年にマイナス成長になると予想される。

澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「アジア・太平洋地域のほとんどの経済は、2020年の残された期間も困難な成長軌道を描くことになるだろう」とし、「新型コロナウイルスのパンデミックによってもたらされた経済的な脅威は依然として強力であり、長引く第一波、あるいは第二波の到来により、さらなる封じ込め対策が求められる可能性がある。この地域におけるインクルーシブで持続可能な回復を確かなものとするためは、最も脆弱な立場にある人々の命と生活を守ること、そして安全な職場復帰と事業活動の再開を確保することに焦点を当てた、一貫性があり調整されたパンデミック対策が引き続き重要である」と述べた。

新型コロナウイルスのパンデミックの長期化は、今年と来年のアジア・太平洋地域の成長見通しに対して引き続き最も大きな下振れリスク要因である。このリスクを最小限にとどめるために、各国政府はこの地域のGDPのおよそ15%に相当する3兆6,000万ドルの所得支援を柱とした政策支援パッケージなどの幅広い政策対応を行ってきた。

その他の下振れリスク要因としては、米中間の貿易や技術分野における紛争の悪化などの地政学的な緊張関係、そして新型コロナウイルス・パンデミックの長期化により悪化が懸念される財務の脆弱性などが挙げられる。

中国は、経済の減速から戻りつつある数少ない国の1つである。効果的な公衆衛生対策が成長への道筋へとつながり、今年の成長率は1.8%、2021年は7.7%と予測される。ロックダウンにより、消費や事業投資が停滞したインドでは、今年度第一四半期に過去最低となるGDP成長率マイナス23.9%を記録し、2020年度はマイナス9%に落ち込むが、2021年度にはプラス8%に回復すると予測される。

アジア・太平洋の各地域について、今年はマイナス成長となる見通しであるが、唯一東アジア地域に関しては、今年は1.3%の成長、そして2021年には7.0%と力強い回復が見込まれる。貿易や観光に深く依存する、特に太平洋地域や南アジア地域の国々においては、今年は二桁に上るマイナス成長に見舞われる。ADBの見通しでは、クック諸島やミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオ、サモア、トンガなど一部の太平洋地域の国々を除き、ほとんどのアジアの開発途上国が来年には成長を回復する見込みであることが指摘されている。

アジア開発途上国の今年のインフレ率見通しは、依然として原油価格が低水準であることや需要の低迷により、4月時点の3.2%から2.9%に下方修正されている。2021年のインフレ率は、2.3%とさらに低下する見込みである。

このアジア経済見通し2020年改訂版では、特別テーマとして「不安な時代の健康(Wellness in Worrying Times)」を取り上げ、新型コロナウイルスによる心身の健康被害からの回復など、健康の重要性について考察している。この章では、地域各国が豊かな健康に関する伝統を生かし、政府によって適切な政策が推進されれば、健康増進をインクルーシブな経済成長のエンジンとすることができると論じている。

ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。

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