フィリピン・マニラ(2019年9月18日)アジア開発銀行(ADB)の『アジア・ボンド・モニター』(Asia Bond Monitor)の最新号によると、激しさを増す貿易紛争、予想を上回る中国経済の減速、また、世界経済に下振れリスクが高まる状況の中で、2019年第2四半期における東アジア新興国の現地通貨建て債券市場は着実な伸びをみせた。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「海外投資家による東アジア新興国に対する投資は、引き続き堅調であるものの、新興国に対する見方が変れば、同地域における金融の安定性は損なわれる恐れがある」とした上で、「現地通貨建て債券市場が安定的な資金供給源として機能するように、各国政府は引き続き同市場の深化・拡大に重要な役割を果たすであろう」 と述べた。
東アジア新興国は、中国、香港、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムで構成されている。
不安定要因となり得るリスクにもかかわらず、東アジア新興国の債券市場に対する外国投資は第2四半期も依然として安定していた。海外投資家による現地通貨建て債券の保有高は、中国においては政府による追加景気刺激策への期待により、そしてインドネシアでは信用格付け引き上げを背景に、それぞれ上昇した。韓国、マレーシア、フィリピンでの保有高は、様々な国内要因により減少した。
東アジア新興国の現地通貨建て債券の6月末残高は、総額15兆3000億ドルで、今年3月末から米ドル換算で3.5%増加し、2018年6月末から14.2%増加した。第2四半期の東アジア新興国での債券発行は総額1兆6000億ドルで、国債の積極的な発行と社債発行の回復により、第1四半期から12.2%増加した。
本年6月末時点の現地通貨建て国債の発行残高は9兆4000億ドルで、前年同期比で13.6%増加し、社債のストックは5兆8000億ドルで、前年同期比で15%増加した。
中国は引き続き東アジア新興国で最大の債券市場であり、この地域の総発行残高の75.3%を占めている。中国では、経済成長を支え、インフラその他の開発プロジェクトのための資金を調達するために、地方政府に特別債の発行と使用を加速する方針が出され、地方債のストックは前四半期比で5.4%増と中国のあらゆる債券カテゴリーの中で最も急増した。6月末時点の中国の債務対GDP比率は、前年同時期の78.8%から84.6%へと上昇した。
『アジア・ボンド・モニター』の中では、米国の金融政策の不確実性が新興国通貨に与える影響、新興市場国における企業の資金調達手段の選択肢としての国内資本市場の重要性、さらに、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)から、他のベンチマーク金利への移行プロセスに伴い金融市場が直面する課題、の3つのテーマに焦点を当てた議論を取り上げている。
インドネシア
インドネシアの現地通貨債券市場は、2019年第2四半期において、東アジア新興国の中で最も急成長した。2019年6月末時点で、現地通貨ベースで前年比17.6%増の2,170億ドルの発行残高があった。ただし、第1四半期末と比較して0.5%縮小し、国債市場は0.3%減の1,880億ドル、社債市場は1.6%減の300億ドルとなった。
5月31日、インドネシアの信用格付けはS&PによってBBB-からBBBに格上げされた。これは、好調な経済成長の見通しと経済を支援する大胆な政策によるものである。これにより、インドネシアの現地通貨建て債券市場での外国人保有額が増加した。
タイ
タイは、東アジア新興国で3番目に急成長している現地通貨債券市場であり、現地通貨ベースで前四半期比3.1%増加し、6月末には4,250億ドルに達した。これは、国債市場と社債市場の両方の拡大によってもたらされた。タイの社債市場は、企業による積極的な発行により、現地通貨ベースで前四半期比5.1%増の1,210億ドルとなる好調な成長を示した。一方、国債市場は、中央銀行債、国有企業およびその他の債券ストックの増加により、現地通貨ベースで前四半期比2.3%増の3,040億ドルとなった。タイには、ASEAN加盟国の中で最大の国債市場があり、6月末の発行残高は3,038億ドルとなっている。
中国
中国は、東アジア新興国の現地通貨建て債券市場の中で、前四半期比で最も急速な成長を記録した。人民元建て債券市場は、現地通貨ベースで前四半期比4.0%成長し、11兆5,120億ドルとなった。人民元建て債券市場は、6月末時点で東アジア新興国の現地通貨建て債券市場の75.3%のシェアを占めている。
社債市場は、資金調達を目的とする金融債券の発行が増加したため、6月末において現地通貨ベースで前四半期比3.6%拡大し、4兆650億ドルとなった。国債市場は、主に地方債の発行により、現地通貨ベースで前四半期比4.2%拡大して7兆4470億ドルとなった。
フィリピン
フィリピンの現地通貨建て債券市場は、東アジア新興国の現地通貨建て債券市場の中で、前年比で過去2番目に急速な成長を記録し、債券の総発行残高が現地通貨ベースで16.8%増の1,310億ドルとなった。
6月末の国債残高は、現地通貨ベースで前四半期比1.7%増、前年比15.2%増の1,030億ドルとなった。この穏やかな成長は、今年第1四半期に発行された大量の国債によるものだ。社債の発行残高は、前四半期比2.3%、前年比で23.3%増加し、280億ドルとなった。
フィリピンペソ建て債券市場の外国人投資家による保有比率は、投資家が利益確定売りしたため、6月末に5.0%に低下した。しかし、フィリピン政府は外貨建債券を発行し、7億5,000万ユーロ(8億4,200万ドル)相当の8年物のユーロ建て債券、および25億元相当の人民元建て債券、3年物のパンダ債を通じて資金調達源の多様化に成功した。
ベトナム
ベトナムの現地通貨建て債券市場は、第1四半期の0.7%の拡大に続き、2019年第2四半期も引き続き拡大し、現地通貨ベースで前四半期比2.6%増の530億ドルに成長した。この穏やかな成長は主に、国債と中央銀行手形の発行により、国債市場が3.2%拡大し、480億ドルとなったことを背景としている。さらに、国債市場の成長は、社債市場が2019年第2四半期に50億ドルとなった3.4%縮小を埋め合わせた。