フィリピン、マニラ(2021年6月25日) - アジア開発銀行(ADB)の『アジア債券モニター』(Asia Bond Monitor)の最新号によると、新型コロナウイルスのパンデミックによる不確実性やインフレ圧力への懸念から投資家心理が冷え込む一方、東アジア新興国の債券利回りは、市場固有の要因によりばらつきが見られた。
2月28日から5月21日までの短期(2年)国債利回りは、緩和的な流動性環境を背景に大きく下落した。しかしながら、回復への道筋や市場固有の経済ファンダメンタルズは一様ではなく、そうした要因により長期(10年)国債の利回りは域内で乖離した。中国、香港、インドネシア、ベトナムの国債利回りは、短期・長期ともに低下した一方で、韓国、マレーシア、フィリピンでは上昇した。
東アジア新興国の現地通貨建て債券市場は、今年3月末時点で20.3兆ドルに拡大した。3月31日までの四半期における債券市場の成長は、前四半期の3.1%から2.2%へと鈍化した。これは、同地域の政府が財政政策との均衡を図ろうとしていたこと、また新型コロナの流行が再燃し、ワクチンの供給に依然として不均衡が生じる中、民間セクターが慎重な姿勢であったことによる。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「新型コロナウイルスのパンデミックに伴う不確実性と迫りつつあるインフレ圧力は、東アジア新興国の債券市場に打撃を与え、域内の金融および株式市場に不安定性と複雑な業績をもたらす」とし、「この地域で急拡大しているサステナビリティ債券市場は、グリーンでインクルーシブな復興への関心の高まりと、それを促進する公共政策に支えられており、パンデミック後のよりスマートな復興に向けた地域的取り組みの鍵となる」とも述べた。
ここで東アジア新興国は、中国、香港、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイおよびベトナムを指す。
新型コロナウイルスのパンデミックは、依然として域内の債券市場にとって最大のリスク要因である。一部の市場では、流行再燃や新たなウイルス変異株の出現、ワクチン接種の予想以上の遅れにより、経済活動が制限される恐れがある。米国連邦準備制度理事会(FRB)が、高まるインフレ圧力に対応し、金融政策の引き締めを図る懸念が、この地域の金融情勢に圧力をかけている。
東アジア新興国の債券市場は、2021年第1四半期の域内経済生産高の96.4%に相当する。東アジア新興国の国債は、3月末時点で合計12.6兆ドルであり、同地域の総債券発行残高の61.8%に相当する。中国は引き続き域内最大の債券市場であり、東アジア新興国の債券発行残高の77.8%を占めている。
第1四半期末のASEAN地域および中国、香港、日本、韓国のサステナブル債券市場は前四半期比13.2%増、前年同期比44.5%増の合計3,013億ドルとなった。現在、この地域の市場は、世界のサステナブル債券市場の約20%を占めており、欧州に次ぐ規模となっている。
『アジア債券モニター』の最新号では、持続可能な金融(サステナブル・ファイナンス)のガバナンスについて、そして持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向け、いかに金融システムと投資枠組みを連動させるかをテーマとした章を設けている。また、本レポートには2つのディスカッションボックスがあり、域内の一部の市場において、グリーン投資に資金を提供するためにどのようにスクーク(イスラム債)を利用することができるか、また、デジタルファイナンスなどの技術的進歩が、いかにグリーンでインクルーシブな復興に向けた持続可能な投資を促進することができるか、について考察している。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。