【中国・香港、2018年4月11日】 アジア開発銀行(ADB)が本日発表した「アジア経済見通し2018年(Asian Development Outlook:ADO) 」によると、 アジアの開発途上国では、その多くで、高い輸出の需要と急速な内需拡大が続き、成長が加速した。 「アジア経済見通し」はADBの重要な年次経済刊行物である。
アジア・太平洋地域の国内総生産(GDP)は、2018年が6.0%、2019年が5.9%と予測され、2017年の6.1%と比べ、わずかな減速となる。高所得の新興工業国を除き、2017年に6.6%を維持した成長率は、2018年は6.5%、2019年は6.4%になると予測される。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「アジア途上国の経済は、堅実な政策と輸出の拡大、揺るぎない内需により現在の成長率を維持するだろう。 域内の貿易関係が堅調で、金融面のバッファーが増加しているため、この地域は、貿易摩擦の悪化や急激な資本流出リスクなどの外的要因に耐えられるだけの余力がある」と述べている。
先進国経済も継続的な回復が見込まれ、米国、ユーロ圏、日本では、2018年は2.3%、2019年は減速して2.0%の成長が予測される。米国では、米国連邦準備制度が段階的に金融引き締めることでインフレが抑えられるとともに、先般導入された減税措置により、成長が加速すると見込まれる。一方、ユーロ圏と日本では、良好な景況感と金融緩和政策が成長力を後押しする。
中国では、公共部門が成長を支え続け、2017年は8%増となったが、今後は減速し、急速に成長率を上げた2017年の6.9%に対し、2018年は6.6%、2019年では6.4%となる模様。しかし、国内外の高い需要と経済改革により、中国では今後も経済成長とマクロ経済的安定が期待される。
南アジアは域内最大の経済大国であるインドの景気回復によって、世界的にも、最も早い経済成長が続くと予測される。インドの成長率は、2018年度で7.3%、2019年度で7.6%が見込まれている。2019年には、高額紙幣の廃止による影響が消え、物品サービス税の完全実施によって、急成長が期待される。
東南アジアでは、引き続き世界的な貿易拡大と商品価格の回復を追い風に、2018年と2019年は、2017年の成長率5.2%を保つと見られる。中でも、インドネシア、フィリピン、タイでは、堅調な投資と国内消費が成長を加速させ、ベトナムでは、産業基盤の拡大が成長の後押しとなる。
中央アジアでは、商品価格の上昇により、2018年は4.0%、2019年は4.2%の成長が見込まれている。また、太平洋地域は、この地域最大の経済国であるパプアニューギニアで、地震の影響によりガス生産が一時中断されていたが、安定を取り戻したことで、今後2年間でそれぞれ2.2%と3.0%の成長が期待されている。
アジアの消費者物価と商品価格の上昇が域内の高いインフレを加速すると見られ、消費者物価上昇率は、2017年の2.3%から、2018年と2019年には2.9%まで上昇する。しかし、今後2年間のインフレ予測は、地域の10年間の平均である3.7%より下回る見込みである。
主に貿易摩擦の悪化の恐れから、見通しは下落傾向になっている。先般の米国による一部の製品に対する関税は、まだ貿易を減少されるには至っていないが、今後、米国がさらなる措置を取ったり、米国のこのような方針に対抗する動きが起これば、アジア・太平洋地域の良好な景況感や消費者マインドに悪影響を与えると考えられる。米国のさらなる利上げにより、資本の流出が加速される可能性はあるものの、域内の十分な流動資産により、リスクはある程度軽減される。幸運にも、アジア経済諸国の大半はこれらの課題に対応するだけの余力がある。
民間債務の増加は、一部のアジア諸国にとって懸念となっている。今回の「アジア経済見通し」をまとめるにあたり、ADBが行った調査によると、累積債務が経済に良い影響を与えるのは短期的に留まる。世界的な金融危機以来、アジア開発途上国における民間債務は増加しており、その効果が限定的であることからも、追加債務は必ずしも生産的な投資につながっていないことが伺われる。関連当局が地域の金融制度を強化すれば、このリスクに対応することも可能である。