フィリピン、マニラ(2021年4月28日)-アジア開発銀行(ADB)が本日発表した、「アジア経済見通し2021年版(Asian Development Outlook2021:ADO 2021)」によれば、アジア・太平洋地域の新型コロナウイルスパンデミックからの復興が、インクルーシブで、強靱かつ持続可能なものとなるためには、グリーン・ファイナンスやソーシャル・ファイナンスを用いた取り組みを育む必要がある。
この報告書の特別テーマ「環境に優しくインクルーシブな復興のための資金調達」の章では、政府は、環境問題や社会的な課題を解決するための金融手段であるソーシャル/グリーン・ファイナンスの発展を支援するための政策を講じるべきであるとしている。報告書は、グリーン/ソーシャル・ファイナンスの発展を加速させるために、政府に対して財政措置や法整備、規制などを行うよう提言している。規制により情報開示とインパクトの測定に関して共通の基準を設けることで、グリーン/ソーシャル・ファイナンスを、特に民間セクターにとって効果的かつ持続可能で、魅力的なものにすることができる。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「新型コロナウイルスはとりわけ貧困層を苦しめてきたが、他方でより良い復興のための機会を提示している」とし、「このいわゆる『グレート・リセット』には、環境分野や保健、教育といった社会セクターに対する巨額の投資が必要である。各国政府の歳入は新型コロナウイルスにより深刻な影響を受けているため、これらの分野に必要な投資を行うには、政府と民間セクターの協力が欠かせない。政府はグリーン/ソーシャル・ファイナンスのための市場インフラやエコシステムを強化すべきであり、そうすることでこの分野が発展し、持続可能でインクルーシブな復興に貢献することができる」と述べた。
グリーン/ソーシャル・ファイナンスは、特に民間セクターにおいて、近年急成長している。これには持続可能な開発目標に対する投資家の選好の変化が大きな要因となっている。現在、世界の資産の3分の1に当たる30兆ドルあまりが、ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点からの検討に基づいて運用されている。企業は、持続可能性のリスクをヘッジし、「忍耐強い投資家」を呼び込み、ショックに対応する強さをより備えるために、グリーン/ソーシャル・ファイナンスを活用している。報告書によると、高所得国経済が依然として市場を独占する一方で、アジアの開発途上国はグリーンボンド、ソーシャルボンドおよびサステナビリティボンドの新興市場でけん引役を担っている。
また報告書では、グリーン/ソーシャル・ファイナンスがいかに投資家、企業、そして社会に恩恵をもたらすかが説明されている。グリーン・ファイナンスを活用している企業の株価が好調に推移し、コロナ禍においても底堅いことが実証されている。また、アジアのグリーンボンド発行体は、債券発行後2年経過した時点で、環境パフォーマンススコアを平均30%改善した。より多くのグリーンボンドを発行している都市では、大気質の大幅な改善が見られ、人々の健康の向上につながった。
報告書では、景気刺激策、マイクロファイナンス、カーボンプライシングなど、環境に優しくインクルーシブな復興を促すことができる資金調達のツールがいくつか紹介されている。インパクトボンドのような革新的な資金調達の仕組みが、民間セクターの資本を社会プログラムへとつなげる助けとなっている。その一例として、「Educate Girls」開発インパクト債が挙げられるが、同債券はインドの社会から取り残された学童期の女子の教育成果の改善に貢献した。
報告書では、ADBなどの国際開発金融機関もまたグリーン/ソーシャル・ファイナンスの成長を助けることができると指摘している。国際開発金融機関は、直接資金を提供すること、そしてブレンドファイナンス、信用補完、融資保証、その他の革新的な金融手段を通じて公的および民間の資金源から資金を動員する触媒機能を果たすことによって、グリーン/ソーシャル・ファイナンスの成長に貢献できる。また国際開発金融機関は、開発途上国経済において、市場のインフラやエコシステム、政府の政策、ナレッジ、そして能力の強化を助ける上で、重要な役割を果たすことができる。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。