中国・香港 (2018年9月26日) アジア開発銀行(ADB)が本日発表した「アジア経済見通し2018年改訂版(Asian Development Outlook 2018)」によると、アジアの開発途上国は、その多くで、安定した国内需要、原油とガスの価格上昇、インドの成長回復により、堅調な経済成長を維持している。しかし、貿易摩擦の激化によって、地域の回復力が試される状況となっており、各国間で貿易促進に向けた努力が重要であることを浮き彫りにした。
この報告書は、今年4月に発表されたADBの主要経済刊行物「アジア経済見通し」の改定版で、ADBはこの中で、2018年のアジア・太平洋地域のGDPは6.0%の成長を見せると予測する一方、2019年の成長見通しは、4月の見通しから0.1%ポイント減の5.8%としている。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「アジア・太平洋地域の成長は、中国とインドの内需に下支えされ、外的要因に耐えている。最大のリスクは、今後、貿易摩擦が激化した場合、国際的な生産のバリューチェーンが寸断され、それが成長の継続の妨げとなることだ。しかし、アジアは、これまでに採られた保護的な貿易策の直接的な影響に耐えて成長を続けられるだろう」と述べた。
地域の最大経済国である中国とインドでは、堅調な内需が成長をけん引しており、一方、カザフスタンのようなエネルギー輸出国では原油とガスの価格上昇が成長を後押ししている。しかし、新たな向かい風に、地域の将来的な成長軌道は不透明となっている。貿易摩擦の激化に加えて、世界的な資金の流動性が厳しくなれば、今後の見通しにさらに影を落とすことになる。
先進国の成長は、4月の予測通り、2018年で2.3%、2019年で2.0%である。米国では、個人消費と雇用の創出が成長の要因となっているが、ユーロ圏と日本では、年初に景気回復が低迷したことで、2018年の予測がやや下方修正された。米国はインフレを未然に防止するため、金融政策を正常化すると見られる。
堅調な国内消費とサービス産業の著しい拡大により、年前半の中国の経済状況は好調で、2018年の成長見通しは変わらず6.6%を維持すると見られるが、2019年は需要の停滞と貿易摩擦の激化の可能性を受け、下方修正されて6.3%となった。また、報告書では、金融・財政政策による供給面での改革が成長を順調に支えるとしている。
インド経済は着実に成長を続けており、2018年の見通しは変わらず7.3%、2019年の見通しは7.6%である。これは高額紙幣の廃止と、物品・サービス税の導入による一時的な影響が、予測どおり軽減しているからである。原油価格の上昇の影響は、堅調な国内需要と、特に製造業における輸出の増加によって相殺されている。ルピーの下落と不安定な国外の金融市場は課題である。緊縮的な財政政策がインフレ圧力を抑える事が期待されるものの、インフレの加速も同様に課題である。
東南アジア10カ国のうち6カ国で成長は緩やかで、2018年は、前回の予測から0.1%ポイント減の5.1%の成長予測である。インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムでは、政府主導のインフラ投資を支えるために輸入が急増したため、純輸出が減少し成長を抑制した。今後成長が減速するリスクは高まっているいるものの、今年4月の見通しと変わらず、2019年には5.2%の成長が見込まれる。
原油と天然ガスの価格上昇は、輸出と投資の増加とあいまって、わずかながら中央アジアの成長を促進し、今年は4.1%の成長が期待される。中央アジアとは逆に太平洋地域では、前予測から半減し、1.1%の成長見込みである。これはパプアニューギニアの地震による影響と東ティモールの公共支出不足による。
米国連邦準備銀行が、インフレ防止のために現在より早く金利を上昇させる必要が生じれば、それに起因する金融ショックも、アジア・太平洋地域におけるリスクとなる。しかし、最大の危険は、悪化する貿易摩擦の国際的な生産ネットワークへの影響である。取引関係に悪影響が生じ、投資計画の取り消しなどが発生する。東南アジアを中心に、一部の国では、貿易先がこの地域に移ることで中期的な利益を得られるものの、結局は貿易摩擦の悪影響が浸透し、この地域の信頼と投資を減少させる結果となる。したがって、現在、アジア諸国が地域内外で貿易協定を形成しようとする努力は、高まる保護主義に対抗する上で重要である。