フィリピン、マニラ(2020年4月3日)-アジア開発銀行(ADB)は、本日発表した「アジア経済見通し2020年版(Asian Development Outlook 2020: ADO 2020)」の中で、イノベーションを特別テーマとして取り上げた調査報告を公表。同報告によると、さらなるイノベーションの促進が、アジア・太平洋地域においてより速く、よりインクルーシブな経済成長をもたらす。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「アジアの開発途上国は、国内総生産の2.1%を研究開発投資に充てているものの、国によってそのばらつきは⼤きい」とし、「イノベーションを推し進める5つの主な要素として、健全な教育システム、革新的な起業家精神、制度的支援、より深化した資本市場、そして研究型大学や先見的な企業を結びつける活気に満ちた都市の形成などが挙げられる」と述べた。
過去50年間で、アジア・太平洋地域は世界的なイノベーションと知識のハブとなり、世界における同地域の研究開発投資が占める割合は、1966年の22%から2017年には40%に増加した。
また、同地域には、中国、日本、韓国、シンガポールなど、世界で最も革新的とされる国々がひしめく。しかしその一方で、同地域のその他の国におけるイノベーションは、依然として先進国よりも遅れをとっていると報告書は指摘している。
報告書では、よりイノベーションが進んでいる国はより急速な経済成長を遂げる傾向にあることが示されている。韓国のように高所得国へと移行したアジア・太平洋地域の中所得国は、生産性の向上に不可欠なイノベーションへの支出を増やした。こうした国々における研究開発費への投資額は、他の国々の3倍に及ぶ。加えて、イノベーションは、同地域におけるよりインクルーシブで環境的に持続可能な成長の実現に貢献する。電気や液化石油ガス・圧縮天然ガスを動力源とするトゥクトゥク(三輪タクシー)やジープニー(乗り合いバス)はその例である。
持続的なイノベーションには、教育を受けており熟練した労働力が必要である。 基礎教育システムは、科学、技術、工学、数学などの分野と、批判的思考や問題解決能力、創造性を促進するための学習を組み合わせたハードスキルとソフトスキルの両方を提供する必要がある。 そしてまた実地研修も重要である。 ADBの報告によると、従業員を訓練した企業は、訓練を行っていない企業よりも12パーセントポイント以上、革新が進んでいる。
革新的な起業家や小企業は、より強固な財産権、競争政策、法の支配、そして優れた情報通信技術といった制度的な助けにより支えられる。資本市場、とりわけ株式市場へのアクセスは金融イノベーションのカギである。政府は研究開発資金を手当てする上で主要な役割を果たす。
本報告書では、アジア・太平洋地域において革新的な社会を実現するための近道は無いと結んでいる。革新的な社会の構築には多大な努力を伴う長期的なコミットメントが求められる。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。