フィリピン、マニラ(2021年11月16日)— 本日発表された報告書によると、グローバル・バリューチェーンは、新型コロナウイルスのパンデミック下においても、開発途上国の経済に重要な成長の機会を提供し、その世界経済への貢献は通常報告されているよりはるかに大きくなる可能性がある。
「グローバル・バリューチェーン・レポート2021年版:製造業を超えて」(Global Value Chain Development Report 2021: Beyond Production)によると、製品やサービスの構想策定から市場に至る、多国間の国境を跨いだ生産ネットワークであるグローバル・バリューチェーンは、知的財産サービスの貿易取引の「見落とされている価値」を考慮すると、通常報告される規模の二倍になると指摘している。
知的財産サービスの貿易取引の拡大に伴い、グローバル・バリューチェーンは非製造業にも拡大している。アジア開発銀行(ADB)が、対外経済貿易大学GVC研究院(Research Institute for Global Value Chains)、世界貿易機関(WHO)、ジェトロ・アジア経済研究所、中国発展研究基金会との協力により発表したこの報告書によると、こうしたグローバル・バリューチェーンの拡大は、開発途上国経済において、よりインクルーシブな成長の機会を提供する。
同時に、新型コロナウイルスのパンデミックの状況下における国境閉鎖と渡航制限は、グローバル・バリューチェーンの脆弱性を露呈し、製品不足の一因となり、生産のリショアリング(製造業の国内回帰)に関する議論を活発化させた。
浅川雅嗣ADB総裁は、「この報告書は、グローバル・バリューチェーンの付加価値が非製造業で以前にも増して生み出されていることを示すことによって、新たな境地を切り開いている」とし、「新型コロナウイルスからの復興には、価値がどこで生み出され、どのように共有されているかについての新しい知識を深め、特に低所得国や中小企業がグローバル経済に参加する機会を増やすといったやり方で、バリューチェーンを再活性化させる必要がある」と述べた。
知的財産サービスの輸出は、従来の貿易統計では輸出サービスとして直接記録されない。これらのサービスには、ブランド、特許、無形のノウハウ、そして現地法人に新たなビジネス機会を生み出すマーケティング・ネットワークをもたらす多国籍企業を含む。先行投資の必要性が低く、デジタル技術のコストが低下していることにより、低コストの労働力はあるものの、資本集約的な製造業の要件を満たすことに苦戦する低・中所得国にとって、サービス主導の成長は好機となる。
また、サービス貿易は平均所得を増加させることがわかってきた。このことは、サービス貿易部門の雇用で高い割合を占める女性に特に恩恵をもたらす。同時に、デジタル経済の台頭により、中小零細企業がグローバル・バリューチェーンに参加するためのチャネルがより多く、より少ないコストで提供されるようになっている。
サービス貿易の成長を可能にするには、コストや参入障壁の制限、労働者訓練への投資の促進、学校教育の相対的コストの削減、そしてインフラ投資と技術へのアクセス改善によるデジタル・デバイド(情報格差)の縮小を目的とした政策が必要である。
「グローバル・バリューチェーン・レポート2021年版」によると、新型コロナウイルスのパンデミックにより、グローバル・バリューチェーンが極めて逼迫した状況に置かれている一方で、それらは強靭性を示しており、防護具やワクチンの供給において人命を救う役割を果たしている。電子商取引やリモート・ワークのような革新的なソリューションは、パンデミックへの対応の中で拡大された、と報告されている。
新型コロナ後のグローバル・バリューチェーンはまた、地政学的な緊張や気候変動によるリスクに直面する。調査では、グローバル・バリューチェーンの90%が、パンデミックの衝撃と米中間の貿易摩擦との複合的な影響を受けたことを示している。
こうしたリスクにより、特にデジタル化や自動化を通じて、グローバル・バリューチェーンの強靭性を高めることが不可欠な状況となっている。これまで企業は、多角化や透明性の確保、デジタル化などの強靭性対策への投資で対応してきた。しかし、リショアリングはコストが非常に高く、ほとんどのリスクへの対処が困難なため、これまであまり注目されていない。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。