フィリピン、マニラ(2021年10月20日) - アジア開発銀行(ADB)は、アジア・太平洋地域における、低炭素化に向けたエネルギー転換の促進と、信頼性が高く手頃な価格でのエネルギーサービスの利用拡大に向けた取り組みを後押しする新たなエネルギー政策を承認した。

浅川雅嗣ADB総裁は、「エネルギーはインクルーシブな社会経済発展を支える上で中心的役割を果たすものの、従来型のエネルギーシステムの拡大は、気候変動や自然環境に深刻な影響を及ぼしている」とした上で、「ADBの新しいエネルギー政策は、開発途上国加盟国における、信頼性が高く、手頃な価格でクリーンなエネルギーの利用拡大を進めるという重要かつ緊急の取り組みを支援する」と述べた。

「この新しい政策は、今後ADBは石炭火力発電への新たな資金提供を行わないという強いコミットメントを示している。2019年から2030年の間において、開発途上加盟国への気候変動対策のための資金として1,000億ドルを提供するとする我々の新たな野心的目標と相俟って、この政策は、環境的に持続可能なエネルギーの未来に向けたADBの貢献に対して明確な道筋を示すものである」と浅川氏は述べた。

アジア・太平洋地域の開発途上国では、エネルギーの利用拡大が急速に進展している。しかし、この地域では今もなお、約3億5千万人が充分な電力の供給を得られておらず、約1億5千万人が電力を利用できないでいる。

経済成長と都市化の進行により、発電能力の大幅な増強を伴う、手頃な価格で信頼性の高いエネルギーシステムが求められる。このニーズに対応するために、国際エネルギー機関(IEA)のシナリオによると、この地域の発電設備容量は、2019年の3,386ギガワットから2030年には6,113ギガワットへと、年率約7%で増加する可能性がある。また、この地域の再生可能エネルギーへの投資額は、2030年までに毎年1.3兆ドルに達し、過去10年間の2倍になると見込まれる。

ADBの2021年エネルギー政策は、アジア・太平洋地域がこれらの変化に対応するにあたり、ADBの支援が、エネルギーへのアクセスとエネルギー安全保障、気候変動と環境の持続可能性の両面において適切なものとなるよう、指針を示している。この政策は、5つの原則に基づいている。

1. 豊かでインクルーシブなアジア・太平洋地域の実現のためのエネルギーの確保。ADBは、電化プログラムの支援、よりクリーンな調理・暖房・冷房の促進、サプライ・チェーンや消費チェーンにおけるエネルギー効率の向上、社会的インクルージョン、ジェンダーの平等、およびパートナーシップの促進などにより、開発途上加盟国が開発のためのエネルギーを確保できるよう支援する。

2. 持続可能で強靭なエネルギーの未来を築く。気候変動に対応し、環境の持続可能性を高め、気候や災害に対する強靭性を構築するために、ADBは、開発途上加盟国がエネルギー効率を高め、再生可能エネルギーや低炭素エネルギーをより多く導入し、気候や災害に対する強靭性をエネルギー・セクターの業務に統合していくことを支援する。本政策は、新規の石炭火力発電所への融資を行わないとするADBの現行の慣行を正式なものとする。ADBは、この地域で計画されている石炭火力発電の段階的な廃止を支援し、影響を受けるコミュニティのすべての人のために、持続可能かつインクルーシブで、耐性のある生活形成を促進する「公正な移行」の実現にコミットする。また本政策においては、手頃な価格の新技術へのアクセスが開発途上加盟国によって求められていることを認識している。

3. 組織や制度づくり、民間セクターの参加、およびグッド・ガバナンスの実現のための支援。ADBは、民間セクターの参加の促進とともに、エネルギーセクターの機関や企業の組織・制度整備、財務の持続可能性、グッド・ガバナンスの実現を支援する。また、ADBは、パリ協定に基づく脱炭素化のための国が決定する貢献や長期戦略を開発途上加盟国が更新し、強化することを支援するなど、エネルギー転換を管理するために必要な政策的枠組みの構築を後押しする。

4. 地域協力と統合の促進。ADBは、エネルギー安全保障を強化し、よりクリーンなエネルギー源への国境を跨がるアクセスを向上させるため、地域のエネルギー協力とエネルギーシステムの統合を促進する。

5. 開発効果の最大化を目的とする、統合されたセクター横断的な取り組み。ADBは、資金、知識、パートナーシップ、そして国に焦点を当てたアプローチを組み合わせて、包括的かつ拡大された開発効果をもたらす統合的なソリューションを提供していく。

本政策では、ADBのストラテジー2030の元でのアプローチと同様、各開発途上加盟国の経済発展水準、資源保有量、関連する能力、そして国家的に決定された低炭素移行の道筋に沿って、共通だが差別化されたアプローチを採用する。ADBは、低炭素かつ再生可能なエネルギー源の利用拡大を通じて、最貧国や最も脆弱な国におけるエネルギーアクセスを担保し、エネルギー安全保障と気候変動への強靭性を高めるためにインフラを修復する。

ADBは、2009年から2020年までに総額420億ドルを超える融資を行い、地域のエネルギーセクターに大きな貢献を果たしてきたが、地域のエネルギーに係る資金ニーズは、いかなる個々の関係者のリソースをはるかに超えている。新政策では、最も困難なエネルギー課題に取り組むために、ADBの財源を利用して、可能な限りの商業的資金を動員することに優先的に取り組む。

ADBは、そのすべての業務をパリ協定の目標に沿ったものとすることを約束しており、2019年から2030年にかけて、自己資金で累積1,000億ドルの気候変動対策資金を提供するという新たな野心的目標を今月発表した。これは、エネルギーを含むすべてのセクターにおいて気候変動の適応と緩和を支援するものである。2030年までに、ADBの全プロジェクト数の少なくとも75%が気候変動への適応や緩和の取り組みを備えるものとする。

ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。

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