フィリピン、マニラ(2022年8月24日)—アジア開発銀行(ADB)が発表した報告書によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、アジア・太平洋地域における貧困との戦いの成果を2年以上後退させ、この地域の多くの人々は、以前にも増して貧困からの脱却が困難な状況となっている。

本日発表された2022年度版「アジア・太平洋地域主要指標」(Key Indicators for Asia and the Pacific 2022)によると、同地域の今年の経済成長により、極度の貧困層(1日あたり1.90ドル未満で生活する人々と定義される)は、パンデミックが発生していなければ2020年に達成していたと推定される水準まで削減されると予測されている。またデータのシミュレーションによると、パンデミック以前の社会的流動性(貧困から脱する能力)が低い地域の人々については、長期的にその深刻な影響を受ける可能性がある。           

新型コロナウイルス感染症による危機は、アジア・太平洋地域における貧困削減の長期的な進捗を妨げた。経済は回復しつつあるものの、その進捗状況は均一ではない。同報告書によると、パンデミックが、食料不安、また保健・医療サービスや教育への不十分なアクセスなど、所得では捉えきれない様々な貧困形態を悪化させた可能性がある。

アルバート・パークADBチーフエコノミストは、「新型コロナウイルス感染症は貧困層や脆弱層に最も深刻な影響を与えており、経済は回復しつつある中、貧困状態にある多くの人々にとって、そこから脱することがこれまで以上に困難になっている恐れがある」とした上で、「同地域の各国政府は、レジリエンス(強靭性)やイノベーション、インクルーシブネス(包摂性)に重点を置き、すべての人々にとってよりバランスの取れた経済的機会や優れた社会的流動性を確保すべきである」と述べた。

同地域における極度の貧困率は、2030年までに1%未満に低下すると見込まれている。また同時に、人口のおよそ25%が少なくとも中産階級(購買力平価調整済みで1日あたりの所得または消費が15ドル以上で生活する層と定義される)の水準に達すると予測されている。しかし、この見通しは、社会的流動性の違いやその他の不確実性によって脅かされている。アジアの開発途上国は、スタグフレーションに陥る可能性、主要各国を巻き込んで継続される紛争、食料不安の増大、エネルギー価格の急騰に直面している。

「アジア・太平洋地域主要指標」は、49の域内加盟国・地域の経済、金融、社会、環境に関する統計を包括的に提供している。同報告書の最新版では、以下の情報も提供している。

  • 自然言語処理を用いたソーシャルメディア上のテキストデータ分析に関する特別付録。これにより、トピックや感情に関する連続的かつ詳細な情報をマッピングすることができ、研究者による社会的なトレンドや異常の追跡を可能とする。
  • アジア・太平洋地域における、持続可能な開発目標(SDGs)指標に関する更新情報。
  • 観光、運輸、情報通信技術、エネルギーなど、パンデミックによって深刻な影響を受けた特定の分野における業績調査。
  • 世界的な半導体チップ不足の地域的影響についての見解。
  • 労働力や雇用に関する統計をはじめとする広範囲な開発指標などを情報源として行政データを利用する際のグッドプラクティスの概要。

ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。

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