フィピン、マニラ(2020年9月15日)-アジア開発銀行(ADB)は、本日発表した「アジア経済見通し2020年改訂版(Asian Development Outlook 2020: ADO 2020 Update)」の特別テーマを取り上げた章の中で、アジア・太平洋地域が新型コロナウイルスのパンデミックから回復するには、保健医療や健康全般を増進させる政策が不可欠であると論じている。
新型コロナウイルスのパンデミックは、明らかな保健医療上のリスクに加えて、都市封鎖や解雇などによる孤立や不確実性、経済的苦境が高まり、不活発な状態やストレス、そして不安感を増大させた。特別テーマ報告「不安な時代の健康(Wellness in Worrying Times)」においては、健康(ウェルネス)がいかに心身の再建や経済復興に貢献することができるかについて分析している。
澤田康幸ADBチーフエコノミストは、「ウェルネスは、ホリスティック・ヘルス(全人的な健康)や幸福、豊かさの実現を目指す活動と連動している」とし、「パンデミックは心身の健康に重大な悪影響を及ぼしており、政府は、個人と社会の双方に寄与する経済成長を促進するために、健康増進政策を復興計画に組み込むべきである」と述べた。
同報告では、健康を増進させる環境、運動レクリエーションのための公共インフラ、健康的な食事と栄養、安全で衛生的な職場環境など、様々な政策領域にわたる一連の健康対策を特定している。また、これらの分野における対策がパンデミックからの回復にどのように貢献できるかが検討され、長期的に心身の健康を守るためにはウェルネスに対する生涯にわたる取り組みの重要性が強調されている。
アジア・太平洋地域の各国政府は、歩道や自転車レーン、公園やレクリエーションセンター、無料のスポーツ施設など、健康増進を目的とした公共インフラを整備することができる。これにより、レクリエーションとして定期的に体を動かす人(現在33.2%)が増え、健康増進につながる。ウェルネスのための公共インフラやプログラムは、フィットネスセンターのような民間の健康関連施設を通常は利用できない、アジア地域の貧困層にとって特に重要である。
また、各国政府は、消費者の食や栄養に関する知識や意識を向上させることにより、健康的な食生活を奨励すべきである。例えば、域内の一部の政府はすでに、砂糖入り飲料やタバコ製品により高い税率を課しているほか、食品・飲料製品の栄養成分表示に関する規制や国民意識向上キャンペーンなどに取り組んでいる。肥満による年間の直接的医療費が域内国内総生産(GDP)の0.8%と見込まれることに鑑みれば、この点は重要である。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進は、アジア地域のすべての人々の健康による恩恵を拡大する。
さらに、アジア・太平洋地域の各国政府は、特に新型コロナウイルス収束後の計画において、労働者に対して安全で健康的な職場環境を確保するよう取り組むべきである。2018年には、世界で推定230万人が労務関連の事故や疾病で死亡し、そのうちアジア・太平洋地域が全体の3分の2以上を占めた。今回の特別テーマ報告によると、職場における一人当たりの健康支出が世界平均の11ドルから22ドルに倍増すれば、労働者の幸福度は0.15点(1~10点のスケール)改善する可能性があり、生産性と生産高の向上につながる。
ウェルネスは世界経済と地域経済において大きな部分を占めており、新型コロナウイルス後の復興に向けた取り組みにおいて、重要な役割を担う可能性がある。ウェルネスに関連する産業は、2018年に世界のGDPの約5%を占め、4兆5,000億ドルの規模であった。2017年にはアジアの開発途上国のGDPの約11%を占め、年率約10%の成長を遂げている。例えば、ウェルネス・ツーリズムに関連する産業では、2017年にインドで374万人、中国で178万人、タイで53万人が雇用された。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。