中国・香港 (2019年4月3日) — アジア開発銀行(ADB)は本日、新たな報告書を発表。アジアの開発途上国では、その大部分で力強い成長が続いているが、世界の需要減速や根強い貿易摩擦を背景に、2019年と2020年は成長の陰りが予想される。

ADBの代表的な経済刊行物である『アジア経済見通し2019年』(Asian Development Outlook 2019)の最新版によると、アジア地域の成長率は2019年中に5.7%、2020年には5.6%と緩やかになると予想される。中国・香港、韓国、シンガポール、台湾などの新興工業国を除くと、アジアの開発途上国の成長率は、2019年が6.2%、2020年にはやや減速して6.1%となる見込み。なお、2018年の成長率は6.4%だった。

「アジア地域内の多くの国で、国内消費は好調または拡大傾向にあり、これが全体的な成長を引き続き堅調なものとし、輸出の減速による影響を和らげている。しかし、見通しに暗い影を落とす先行きの不透明さは、引き続き高まっている」と、澤田康幸ADBチーフエコノミストは述べている。

米国と中国の貿易摩擦は、依然としてアジア地域の経済見通しにおいて主要なリスクであり、交渉の長期化を受け、世界貿易は一段と不確実性を増している。その他のリスクとして挙げられるのは、先進国や中国の成長が急減速する可能性や、金融市場の不安定性である。

ADBの予測によると、米国の財政・金融政策の一段の引き締め、混乱が見込まれる英国のEU離脱、米中貿易摩擦などを考慮すると、米国、欧州連合(EU)および日本を合わせた成長率は、2019年が1.9%、2020年には1.6%に減速する見込みである。

中国では、製造業からサービスへの産業構造のシフトや、金融リスク管理を目的とした政府による金融引き締めにより、経済成長率が2018年の6.6%から、2019年は6.3%、2020年は6.1%まで減速すると予測される。中国経済は、すでに成熟していることから、成長の鈍化が見込まれる。

一方インドでは、政策金利の引き下げや農家への所得補助金が国内需要の下支えとなって、消費が増加し、成長率は2018年の7.0%から、2019年は7.2%、2020年は7.3%に上昇すると予測される。南アジアは全体として、アジアの他地域よりも好調となり、2019年は6.8%、2020年は6.9%の成長となる見通しである。

太平洋地域の成長も2018年の0.9%から2019年は3.5%に回復が見込まれている。これは、太平洋地域最大の経済国パプアニューギニアで、2018年の地震後初めて液化天然ガスの生産がフル稼働に戻るためである。 なお2020年の成長率は3.2%の見込み。

中央アジアでは、原油価格の下落やロシア連邦の成長の減速がその経済に重くのしかかると予測される。中央アジア地域の成長率は、2019年と2020年に4.2%へと減速する見込み。

報告書によると、インフレ率は低い水準で推移している。食品と燃料価格が安定していることから、消費者物価総合指数は2019年、2020年の両年とも2.5%と、安定が見込まれる。

アジアの新興国市場通貨は、2018年後半にやや上昇した一方、今回の報告書作成のために行った調査によると、米ドル建て債務を抱える国を中心に、為替レートの変動が問題となりかねない。適切な金融政策およびマクロ・プルーデンス政策、地域内の政策対話、国内資本市場の厚みを増すことで、外部資金調達の状況悪化による影響を緩和できる可能性がある。

ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、災害等のショックに強靭で持続可能なアジア太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBが2018年に新たに契約署名した融資およびグラントの総額は216億ドルにのぼる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。

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