辞任意図表明 アジア開発銀行総裁 中尾武彦

スタッフと理事会メンバーに対して、2020年1月16日をもってアジア開発銀行(ADB)の総裁職を辞任する意図を表明いたします。

私は、2013年4月28日に黒田東彦前総裁の任期を引き継いで総裁に就任しました。2016年11月24日には5年の任期で再任されており、まだ任期は残っていますが、新しいアイデアと開発への情熱を持っている新しい人に総裁職を引き継ぐことを考えるときだと思います。このタイミングで辞任意図を表明するのは、総裁職の円滑な移行を図るためです。新総裁の選挙は、オープン、透明で、実力本位の手続きに沿って、ADB総務により行われます。

スタッフ、理事会メンバー、そしてメンバー国のサポートにより、私たちは多くのことを成し遂げることができました。私にとってADBでの時間は実りの多いものでした。私は辞任の意図を、深い達成感と感謝の気持ちを持って表明することができます。

業務面では、以下のような成果がありました。1)より高度な技術をプロジェクトに取り込みつつ、新規の貸付・グラント供与を2013年の140億ドルから2018年の220億ドルに拡大。2)そのうち民間セクター融資(民間企業への貸付、出資、保証)を6億7000万ドルから31億ドルに拡大。3)一般資本勘定(OCR)にアジア開発基金(ADF)の譲許的融資を統合することにより、資本の拡大と譲許的貸付へのレバレッジの活用を可能とし、業務の拡大をサポート。4)最貧国にグラント(無償資金)供与による力強い支援を続けるためのADF第12次増資の合意。5)保健や教育など社会セクターの業務を強化。6)気候変動の緩和及び適応のための貸付・グラントの倍増。7)プロジェクト・ベース、結果ベース、政策ベースの貸付やグラントを駆使して、対外要因による経済変動、自然災害、難民問題などから来る加盟国の困難に迅速に対応。8)現地通貨建て債券やグリーン、ジェンダー、水などのテーマ債券の発行によって資金調達を拡大。

2018年には、「戦略2030」を策定し、ADBの今後の優先分野として、貧困削減への継続的な努力などを挙げるとともに、気候変動、ジェンダー、民間セクター融資と協調融資については明確な数値目標を定めました。昨年以来、次期ADF13増資との関連で将来のグラントによる支援業務のあり方、また、中所得国の中でも所得の高い国々へのより高い金利の適用について議論を進めてきています。

ノレッジの分野では、クリーン・エネルギー、持続可能な交通・運輸、都市、水、デジタル革新などについて、数多くの重要なフォーラムを開催してきました。また、インフラ投資の必要額、産業の構造変化、ITの雇用への影響、災害の防止、地域公共財など、注目度の高い研究を発表しました。2017年の横浜での年次総会の際には、ADBの50年史を出版しましたが、この本ではADB自体の歴史とともにアジア諸国がどう発展してきたのかについても論じています。ADBの技術支援は、法律、財務、腐敗防止、環境・社会配慮のためのセーフガードなどの分野にも拡げてきました。NGOとの関与も深まっています。広報活動は、ソーシャル・メディアやニュース・リリースも活用して強化してきました。

各国への訪問と、各国首脳、当局者、学者、学生、民間企業の人々との意見交換は、私にとって常に有意義でした。どの国でもリーダーの開発への強い意欲、それに自国の歴史や文化への誇りを感じます。他の国際開発金融機関のリーダーともよい関係を築けたことに感謝します。新設の機関を含めて、これら機関の間の協調も進みました。

私はADBを「より強く、よりよく、より迅速に」したいと考え、各局の間、本部と各国オフィスの間、政府向け融資と民間セクター向け融資の間の協働を促す「一つのADB」のアプローチを推進してきました。ADBの機構は、下記の取り組みにより強化されました。1)融資するプロジェクトに高度な技術を取り入れるため、また、実施を迅速化するため、調達の手続きを改革。2)ADBのITシステムを刷新し、また、災害などへの備えを強化。3)災害向け予防的融資など、新しい融資制度の導入。4)7つのセクターグループ、8つのテーマグループ、デジタル技術応用ユニットを創設し、5つの地域局、民間セクター融資局、そしてノレッジに関する複数の部局の間での専門知識の共有と開発を促進。5)官民連携オフィスを発足させPPP組成のためのアドバイスを提供。6)太平洋の島嶼国への支援を強化するべく、いくつかの国に新たに現地オフィスを開設。7)シンガポールに民間セクター融資のためのオフィスを開設。

能力があり、意識の高いスタッフによる貢献は、ADBが途上国を支援するというミッションを遂行するうえで、欠くことのできないものです。私たちは以下のような分野で人材活用のための改革を進めてきました。1)より効率的で弾力的な採用政策。2)より効果的な人事評価制度。3)キャリア開発とトレーニング。4)スタッフの部局間異動の促進。5)より柔軟な働き方の推進。多様性があって、お互いを尊重する職場にすることは、ADBの優先事項です。国際スタッフに占める女性の割合は、37%にまで増え、40%の目標に近づいています。また、新規職員に確定拠出プランを導入する年金改革により、スタッフ年金の財務の持続性を図りました。ADBの運営経費については、効率化の努力を継続していかなければなりません。

アジアは、目覚ましい発展を遂げ、貧困を大きく削減させてきました。そして、ADBは1966年の創設以来、そのような発展に役割を果たしてきました。アジア太平洋地域における経済成長は、消費を含む強い内需に基づき、引き続き強固です。そして、それは、よい政策、開放的な貿易投資体制、各国でのイノベーションに支えられています。

しかし、同時に、アジア地域には多くのチャレンジが残っています。残存する貧困や拡大する格差への対応、脆弱な状況にある国々や小規模な島嶼国への支援、男女の平等の実現、気候変動の適応と緩和、海洋汚染対策を含む環境の保護、都市化や高齢化への対応、食糧安全保障の確保、農村開発の促進などです。この地域の人口は既に世界の半分以上を占めており、今後も人口及び経済規模の増加が見込まれることから、持続的開発目標(SDG)と気候変動のパリ合意といったグローバルな目標の達成に、決定的な役割を持っています。

ADBは、変わり続ける途上国のニーズに応えるために、そして「繁栄し、包摂的で、強靭で、持続可能性のあるアジア太平洋地域」を目指すというADBのミッションを追求し続けるために、ADB自体が常に革新を続けます。また、ADBは、各国間の協力と友好を促進するための重要な機関であり続けなければなりません。私自身、ADBでの最後の日まで、職務を全うするために最大限の努力を続ける所存です。

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