【シンガポール、2017年10月25日】 アジア開発銀行(ADB)の最新報告書によると、世界の経済・貿易の政策をとりまく環境が不透明な中で、アジア・太平洋地域内における貿易と投資の連携が拡大し、域内経済の耐性を高めている。

本日発表された調査報告書「2017年アジア経済統合報告書」AEIR: Asian Economic Integration Report 2017) において、ADBは近年の地域統合のトレンドを検証し、新しい地域統合指標を紹介している。さらに報告書の特集では、金融の相互関連性が強まる時代において、アジアがどのようにして金融面での経済の強靭性を高めることができるかについても議論している。

堅調な域内貿易と投資は、アジア太平洋地域にとって、世界の貿易や経済成長の不確実性に対する緩衝材の役割を果たしている。アジアの域内貿易の比率は、金額ベースで、2010年~2015年の平均55.9%から、2016年は過去最高の57.3%に上昇した。

2016年、世界各地域からアジアへの海外直接投資(FDI)流入額は6%減少したが、アジア域内国間でのFDIは、2,720億ドル(絶対値)に達した。域内のFDI総額に対する域内国間のFDIの比率は、2015年の48%から2016年は55%に増加した。アジア域内国間のFDIが、世界全体あるいは地域におけるバリューチェーンの発展に寄与しているとすれば、アジア地域における貿易の拡大が世界規模で強められていくだろう。

アジア経済は引き続き、世界的にその存在感を増している。アジアからのFDIは、主に再生可能エネルギー、天然資源、半導体および情報技術への投資により、2016年には11%増加、4,820億ドルにも達した。

ADBの澤田康幸チーフエコノミストは、「世界の経済・貿易政策の方向性が不透明な中、アジア・太平洋地域は、世界貿易の回復を牽引しており、勢いのある成長を維持している。アジアの統合と協力を継続してゆくことが、今後の地域の経済成長と金融の強靭性を支えていくだろう」と述べた。

「2017年アジア経済統合報告書」では新たな複合指標となるアジア・太平洋地域協力・統合指標を紹介している。この指標は、貿易・投資、通貨・金融、地域バリューチェーン、インフラ・連結性、人の移動、そして制度的・社会的な統合という6つの要素について、地域統合の度合いを計量するものである。この指標は、さらなる地域統合・協力を推進するための方策についての政策立案者の理解を深め、その状況が把握できるようにすることを目的としている。

同報告書では特集を設けて、金融の相互関連性が強まる時代において、アジアがどのようにして金融面での強靭性を強化できるかについても議論している。この章では、アジア通貨危機から20年を経て、金融制度の健全性を高め、規制を強化し、域内の金融協力のメカニズムを改善することで、アジアが金融上の強さを維持していると述べている。

一方で、金融市場・金融制度の弱みは解決されておらず、大きな課題として残されている。規制政策のギャップが解消されていないことも、過剰なレバレッジやリスクの負担による、地域のリスクと金融面での脆弱性を高める要因となりうる。

報告書では、地域内各国が将来の危機に対して耐性を強化するための提言が示されている。例えば、健全なマクロ経済基盤の維持、国内の規制・監督枠組みと組織能力のさらなる強化、現地通貨建て債券市場のさらなる発展、相互取引のある域内の銀行のための係争解決メカニズムなど規制の連携強化、潜在的な悪影響や波及効果に対する既存の金融セーフティネットの見直しと強化などが挙げられている。

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