フィリピン・マニラ(2022年2月9日)-アジア開発銀行(ADB)の報告書によると、コロナ禍において行動制限措置やサプライチェーンの寸断が世界貿易の足かせとなったにも関わらず、アジア・太平洋地域経済間における貿易は過去30年で最高を記録し、この地域の経済回復を後押しした。
2021年第1~第3四半期において、世界全体の貿易が27.8%増加した一方、アジア・太平洋地域の貿易は29.6%増加した。本日発表された「アジア経済統合報告書2022年版」(AEIR 2022:Asian Economic Integration Report 2022)によると、同時期の域内貿易が2020年に3.1%縮小したのに対し、2021年には31.2%の増加に転じた。また、アジア・太平洋地域の貿易全体で域内貿易が占めるシェアは2020年に58.5%と、1990年以降で最大となった。
世界的な繰越需要の顕在化や中国の早期経済回復に伴う堅調な域内貿易が、アジア・太平洋地域の経済回復を支えた。同報告書によると、新たに発効された地域的な包括的経済連携(RCEP)協定などの国境を跨いだ貿易と投資をさらに促進するための措置が、地域貿易と経済統合を前進させ、パンデミックからの持続可能な復興への道すじを切り開く助けとなる。
アルバート・パークADBチーフエコノミストは、「アジア・太平洋地域経済間において貿易とバリューチェーンの連携が強化されていることは、新型コロナウイルスのパンデミックからの強靭な復興に向けた明るい兆しである」とした上で、「パンデミックは明らかな経済損失をもたらし、この地域において苦労して得られた多くの貧困削減の成果を後退させた。我々は、地域統合と協力の成果を礎にさらに取り組みを重ね、インクルーシブかつ持続可能な経済成長への復興を支援していかなければならない」と述べた。
持続的な復興には、特にパンデミックからの出口戦略の管理や経済と国境の再開に関連した健康や安全を確保するためのプロトコルの確立など、複数の分野での緊密な政策協力が求められる。域内の健康安全保障とサプライチェーンの強化は、気候変動リスクの緩和と共に、将来のショックに対する同地域の強靭性を高めることになる。
同報告書によると、アジア・太平洋地域経済の統合は、新たなテクノロジーやデジタル接続、環境面での協力や貿易による結びつき、投資やバリューチェーンへの参加などの分野で深化し続けている。
アジア・太平洋地域への海外直接投資も底堅さを維持し、2020年には世界全体で34.7%低下したのに対し、同地域での減少幅は1.3%にとどまった。一方、同地域への送金額は、2020年に2.0%減少した後、2021年には2.5%増加したと推定される。
観光業は引き続きパンデミックによる影響を最も受けているセクターの一つであり、アジア・太平洋地域への海外からの旅行者数は、パンデミック以前の2015~2019年の平均と比較して、2020年には82.8%減少した。
アジア経済統合報告書2022年版の特別テーマを取り上げた章では、アジア・太平洋地域におけるデジタル関連サービス貿易を推進することの重要性について議論している。その章では、急速なデジタル化と新型コロナウイルスのパンデミックが、デジタル関連サービス貿易の成長をどのように促しているかに焦点を当て、人材育成、デジタル接続の向上、規制改革と制度構築、国際協力を通じて、同地域の経済がこうした機会を活かすための方策について論じている。
ADBは、極度の貧困の撲滅に努めるとともに、豊かでインクルーシブ、気候変動や災害等のショックに強靭で持続可能なアジア・太平洋地域の実現に向け取り組んでいる。ADBは1966年に創立され、49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域によって構成されている。